世界で見つかる密教図像が教えてくれること

密教の流伝
密教はインドで生まれ、平安時代の僧である弘法大師空海が中国(唐)で学び、日本に持ち帰った仏教の一派です。宇宙の真理に通じる密教の教えや世界観は、仏や菩薩(ぼさつ)が緻密に配された「曼陀羅(まんだら)」で表現されています。密教は中国やインドだけでなく、現在はイスラム教徒が数多く暮らすインドネシアやインドシナ半島にも伝えられました。現地では曼陀羅を表す絵や仏像がたくさん発掘されており、そうした史料からは、空海が学んだ密教の原型ともいえる教えを読み取ることができます。
インドネシア・インドシナ半島の密教
インドネシアやインドシナ半島は、もともとインド文化圏に属していました。密教は主に海洋交易路を通して広まり、特に7世紀から14世紀にかけてつくられた図像が数多く見つかっています。例えば曼陀羅は絵画だけでなく、鋳造技術でつくられた金属製の像もありますが、これは日本とインドネシアでしか見つかっていません。また、ヒンズー教寺院が立ち並び、一大リゾート地として知られるジャワ島では、空海が自画像の中で手にしている「金剛杵(こんごうしょ)」という法具が見つかっており、現在でも密教の影響が色濃く残っています。
現代社会と密教
こうした研究には考古学や歴史学、金属の性質を分析するための自然科学など、学際的な要素が求められます。そしてその目的は密教の教え、あるいは空海がつくりあげた密教哲学に迫り、現代を生きる私たちの社会につなげて考えることにあります。例えば「ダイバーシティ」という価値観は近年になって重んじられるようになりましたが、密教の世界でははるか昔から「あらゆるものの価値を認める」ことの重要性を大切にしてきました。
現代社会では、過労死や自殺など「命」についての問題が絶えません。その中で、「あなたが生まれてきたことには必ず意味があり、あなたにしかできないことがある」と背中を押してくれる密教の存在は、ますます重要性が高まっていくでしょう。
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高野山大学文学部 密教学科 教授松長 潤慶 先生
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