20世紀中国の作家といえば? 批判にさらされてきた謝冰心
謝冰心はどんな人?
中国人女性作家の謝冰心(しゃひょうしん)は1919年から小説などを発表し始め、人間性を尊重するような心温まる作品を数多く残しました。例えば1921年に発表された『超人』という小説には、世の中に嫌気がさした青年が、事故に遭った少年と過ごすうちに人間らしさを取り戻していく様子が描かれています。特に初期の作品では家族愛や、子どもたちが見ている無邪気な世界のような、天真らんまんな雰囲気が強く出ています。
批判される謝冰心
謝冰心作品は、中国文学研究者から「現実とかけ離れていて理想的すぎる」などの批判を受けることが多くあります。また、「母親は家庭に留まって良妻賢母になるべき」という考えが読み取れる『二つの家庭』という小説に対し、「女性の社会進出を阻んでいる」とフェミニズムの立場から批判されたこともありました。しかし社会情勢の変化や謝冰心自身が人生経験を積んだことなどが影響し、特に1940年代頃からの作品には変化が見られるということはあまり知られていません。
作品の変化と普遍性
1940年代に日中戦争が起こると、謝冰心は戦時下の庶民の女性に目を向けて『女のひとについて』という作品を書きました。家庭に閉じこもることなく社会と関わりを持ちながら、厳しい時代を耐え抜いて生きる女性たちが登場します。また、1950年に書かれた『タオ・チーの夏休み日記』という児童文学には、中華人民共和国成立後の新しい時代を子どもたちや女性が生きていくためのヒントが隠されています。
時代によって作品に変化は見られるものの、謝冰心は家族や親子の愛情の大切さを一貫して伝えてきました。謝冰心作品から読み取れる「良妻賢母」という価値観も、女性の社会進出を阻害したのではなく、「家族を大切にする」という普遍的な生き方を描いていたのではないかと、再評価を目指す研究も始まりました。人としての温かい心を失わずに、社会や家庭などを取り巻く状況とうまく関わりながら生きていくための知恵が、謝冰心の人生や作品から見えてきます。
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國學院大學 文学部 中国文学科 准教授 牧野 格子 先生
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