中東地域におけるキリスト教~共存と迫害の歴史~
被支配民、少数派として
日本では、欧米はキリスト教、中東はイスラム教という認識が一般的です。しかし、欧米にもイスラム教徒の社会はありますし、中東地域にもキリスト教の長い歴史があります。
もともと、キリスト教は中東地域で生まれた宗教です。しかし、さまざまな政治的・社会的な対立の影響で、2000年間、繰り返し迫害を受け、被支配民として、あるいは少数派として生きてきたのが、中東地域のキリスト教徒なのです。
迫害の歴史を見る
中東でのキリスト教徒への迫害の歴史を見てみましょう。最初の迫害は紀元200年頃。当時、まだキリスト教を認めていなかったローマ帝国によるものでした。5~6世紀には、ローマ帝国はキリスト教に改宗していましたが、宗派が違うために「異端」として迫害されます。イスラム軍がシリア一帯を征服した7世紀以降、キリスト教徒は被支配民となります。そして、11世紀に始まった十字軍(キリスト教国家によるイスラム教国家への侵攻)によって、イスラム世界の中のキリスト教徒は「敵の味方」として迫害されます。
その後も断続的に迫害の時代が訪れます。20世紀では、1915年にキリスト教徒のアルメニア人150万人が虐殺されたとされています。
信仰を守り続けて……
一方、共存の時代があったことも忘れてはいけません。例えば8世紀後半から10世紀は比較的平穏な時代で、キリスト教徒は科学・文化の発展に大いに寄与します。政治的に平穏な時代には、被支配民や少数派としてではあっても、平和に暮らすことができていました。キリスト教徒への迫害は、政治的・外交的な事件が起こったり、社会秩序が崩れて治安が悪くなったりしたときに、発生してきたのです。
それでも彼らは、殉教を恐れず、自分たちのアイデンティティを後世に伝えるという強い使命感を持って、信仰を守り続けてきました。それは今日でも続いています。こうした人々の思いや行動を知ることも、世界を見るうえでとても重要な視点なのです。
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