宗教性は誰の心にも根づいている? 二重に存在する自分

宗教性は誰の心にも根づいている? 二重に存在する自分

誰もが宗教に関係している?

宗教と聞くと、「自分は信者ではないので関係ない」と思う人も世の中にはいるでしょう。しかし、宗教性に開かれる心境は誰もが持っています。宗教哲学は、キリスト教や仏教といった宗教の種類に関係なく「人間が自らの宗教性にどのように目覚めるか」といった普遍性に注目し、研究する分野です。

人間は二重に存在している

宗教の普遍性を考えるヒントに、哲学者の上田閑照(しずてる)先生が説いた思想があります。人間はさまざまな人と交わりながら一定の意味の脈絡に張り巡らされた現実世界に生きる一方で、「限りない開け」の中にも自己を見いだすと考えたのです。「限りない開け」とは、世界という枠組みすら超越する広がりを指します。つまり人間は現実世界と、限りない開けに於いて二重に存在しているのです。抽象的に思えるかもしれませんが、文学作品などにも上田氏の思想に通じる描写が登場します。20世紀に活躍した思想家の森有正(ありまさ)は、長い入院生活の中で「みずみずしい春の日の光が窓から入ってくる中、新しい私が目覚めた」といった内容を書き残しました。陽が昇って目覚めるという現実世界の出来事と、病気で混沌としている病室という世界の場に身を横たえつつも、つまり「限りなき開け」からの覚醒を同時に体験していたのです。

修道院や教会だけに心を限定しては神様に会えない

中世ドイツのキリスト教哲学者・神学者として知られるマイスター・エックハルトも、「限りない開け」に関連する内容を残しました。エックハルトは自分の元を訪れた若者に「修道院に入ったら神に会えると思ったら大間違いだ」と伝えたといわれています。たとえ市場や酒場の中にいても、自分自身の我欲にとらわれなければ神は自然と近づいてくると考えていたのです。現実世界の場所だけでなく「限りない開け」に存在する自分にも目を向けることが宗教の第一歩だといえます。このように東西を問わず思想家たちが残した資料から共通する考えを見つけ、宗教の普遍性に迫る研究が行われています。

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上智大学 文学部 哲学科 教授 長町 裕司 先生

上智大学 文学部 哲学科 教授 長町 裕司 先生

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哲学、特に現代哲学および宗教哲学

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メッセージ

混沌とした時代の中に存在する問いや、人間が生きるうえでの根本的な問題に興味があれば、ぜひ哲学を学んでください。哲学の勉強に、特別な能力は必要ありません。唯一重要なのは、あなたの中の関心を忍耐強く問うことです。答えはひとりで考えなくても、大学で対話を通して追求できます。大学には学生の自主的な研究会もあり、世の中に覆い隠された疑問に向き合う機会が多いです。こうした経験から得た考える力や伝える力は卒業後も役立つと思うので、哲学を学んでもらえると嬉しいです。

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日本初のカトリック大学として開学し、創立当初から国際性豊かな大学として、外国語教育に重点を置いてきました。留学制度も充実しており、世界約80ヶ国に390校以上にも及ぶ交換留学・学術交流協定校があり、コロナ禍の2020年度、2021年度を除き、毎年約1,000人の学生が世界の様々な国や地域へ留学しています。また、少人数教育も本学の伝統のひとつです。教員と学生の距離が近く、また学生同士が率直に意見を交し合う、きわめて理想的な教育環境が整っています。他者を思いやり、社会に奉仕できる人材を育成します。