離婚・再婚は当たり前? 江戸時代のビッグデータに見る多様な家族観
江戸時代のビッグデータ
人口学とは人の運命について研究し、結婚や出産などのライフイベントが社会状況からどのような影響を受けるのかを解き明かす学問です。このうち近代以前の史料から人の生死や移動、家族構成の変化などを解析し、研究する学問を歴史人口学といいます。日本では江戸時代、「宗門人別改帳(しゅうもんにんべつあらためちょう)」という、民衆の信仰する宗教を明らかにする目的で行われた調査記録が残っており、これを使って研究が行われています。宗門人別改帳には家族の情報や、結婚や出産などの動態情報が記されており、現代でいうビッグデータに匹敵するものともいえます。
家族の記録から歴史が見えてくる
宗門人別改帳を読み解き、ある人の一生と、その家族の一生を合わせて見てみると、たくさんの「人生の糸」が絡み合っているのが見えてきます。これをさらに広げ、江戸時代後半の10万人分の「ライフコース」を整理・分析していくと、例えば死亡数が非常に増えている、など何らかの特筆すべき傾向が見つかることがあります。この特異な傾向が起きた背景に何があったのかを調べると、実は自然災害や飢きんが起きていた、といった社会情勢が見えてくるのです。このように家族の記録を社会や歴史とひもづけていく、また庶民の記録からボトムアップで歴史を語る、というアプローチを取るのが歴史人口学です。
驚くべき多様な家族観
歴史人口学の視点から考察した江戸時代の暮らしは、今よりもっと離婚や再婚が当たり前で、家族のあり方も多様でした。例えば婿入り先に父親と一緒にいったり、子どもの誕生後すぐ養子を迎えたりしているケースがあります。江戸時代の庶民は「こうあるべき」という概念に縛られることなく、家族の形態を変えながら時代を必死に生き抜こうとしていました。逆に、現代社会に生きる私たちが、いかに画一的な家族観や結婚観に縛られているかが見えてきます。波乱万丈な人生をたくましく生き抜いた江戸時代の人々から学ぶことも多いのです。
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先生情報 / 大学情報
麗澤大学 国際学部 国際学科 教授 黒須 里美 先生
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