モグラの研究者がウシの生態的な役割を考えてみた

畜産学と生態学
「畜産学」は、家畜動物の繁殖や栄養、生理などについて詳しく調べてきた、非常に発達した学問です。一方、生き物たち同士の複雑な関係性を明らかにする学問が「生態学」です。生活がよくわかっていない動物や、すでにさまざまなことがわかっている動物に対して、畜産学と生態学という、それぞれ別の視点からアプローチすると、従来とは全く違う切り口になります。研究が進むと、今まで見えていなかった大発見につながるかもしれません。
地下生活に適した進化
モグラは人間のすぐ足元にトンネルを掘って単独で暮らしています。光が届かない真っ暗なトンネルの中で生活リズムを保ち、酸素濃度が低い場所でも耐えられる、地下生活に適した特別な進化を遂げた動物です。しかし、土の中にいるため観察が困難で、わかっていないことが多くあります。野生のモグラに餌を与えて実験室で飼うことはできますが、繁殖のスイッチがどう入るのかもわかっていないため、増やすことができません。身近な生物であるにもかかわらず、モグラにはまだ多くの謎があるのです。
ウシがいる場所にモグラは
モグラがトンネルを掘るときには、いらなくなった土を地面の上に押し出します。これを「モグラ塚」といいます。モグラ塚は、ウシがいる場所ではあまり見られません。また、ウシが草を食べて草丈が低くなると、ネズミも住みにくくなるようです。草原ではウシの存在が、野生のモグラやネズミなどの小型哺乳類のすみかに大きく影響している可能性があります。そこで、ウシにGPSをつけてウシがよくいる場所を特定し、モグラ塚の位置との関係などを明らかにする研究が進行中です。
そのウシは、モグラとは対照的に群れをつくります。その中でけんかを避けるためのコミュニケーション方法が存在するのではないかと考えられます。ウシは身近で家畜動物の代表といえる存在ですが、まだまだわからないことがあります。このような動物の行動特性についても、生態学的なアプローチから研究が進められています。
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東海大学農学部 動物科学科 准教授樫村 敦 先生
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