生物多様性から得られる「サービス」 その大切さを伝えるには
生物多様性が与えてくれる多大なサービス
私たちは、生物の多様性からたくさんの恩恵を受けています。このように生物多様性から得られるサービスを、専門的な言葉で「生態系サービス」と呼びます。毎日の食事や燃料、木材などはもちろんのこと、夏でも涼しさを提供してくれる森林や、川の水を浄化して海へと流す干潟の泥などの作用も生態系サービスです。また、森林を散歩することでリラックスできるといった効果も、生物多様性が与えてくれるサービスです。ところが、人間の活動によって生態系は大きく損なわれつつあります。特に危機的状況にあるのが、沿岸生態系です。
魚と環境の関係を知ることが第一歩
沿岸の生態系を保全するためには、まずそこにすむ生き物の生活史を知る必要があります。例えば川魚として知られる鮎(アユ)は、実は稚魚のあいだを海で過ごす回遊魚ですが、これまで鮎の稚魚が沿岸部のどのあたりに生息しているのかわかっていませんでした。そこでいろいろな場所で地曳網を引いて調査した結果、波のほとんどないポケット状になった砂浜を選んでいることがわかりました。このように魚と環境の関係を理解していくことが沿岸の健全性維持につながります。そして、砂浜や藻場、干潟などさまざまな生息環境が「景観」として繋がり合うことで初めて、生物多様性の機能が完全に発揮されると考えられます。
生物多様性の大切さをいかに伝えるか
研究や調査でわかった環境と生物多様性との関係を一般の人に楽しく知ってもらうため、宮崎県門川町を舞台にした地域の魚図鑑が考案、出版されました。魚の種類ごとにまとめた従来の図鑑とは異なり、沿岸、陸棚、深海の3つの生息場所で分類することで、魚を通してその地域の生態系を立体的に知ってもらうことが狙いです。地域の図鑑づくりの活動が日本全国に広がれば、生態系についての知識が深まり、環境改善につながると期待されます。また、子どもたちが遊びながら地域の環境について学べる魚のかるたも、環境教育の教材として開発・活用されています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
宮崎大学 農学部 海洋生物環境学科 准教授 村瀬 敦宣 先生
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