人間との関わりで変化するクマの生態

人間との関わりで変化するクマの生態

森の中に単独で暮らす

ヒグマは、北海道の豊かな自然の象徴といわれます。体長は約2m、黒っぽい毛に覆われた姿は野生の力強さを感じさせます。
ヒグマの生態調査では、森を歩き、ふんを拾って、足跡などを確認します。捕獲して調べる場合もありますが、安全のため基本的には森の中にカメラを設置して、直接ではなく間接的に観察します。そこから、子連れのメス以外、単独で生活するクマは「匂い」でコミュニケーションをしていることがわかってきました。例えばオスは木に背中をこすりつけてマーキングし、メスはその匂いを嗅いでオスの存在を確認します。ほかにも、その個体が成熟しているのかまだ若いかなど、クマは匂いを通してさまざまな情報交換をしています。

「植物中心の雑食性」?

調査で採取したクマのふんは、ふるいにかけながら洗って中身を分析します。すると葉っぱや木の実、植物の種のほか、鹿を食べていることもわかります。実はクマの生態研究が始まった1970~80年代には、クマは「植物中心の雑食性」だと考えられていました。当時の日本は高度成長期であり、人間は野生動物を山に追いやっていたため、サケやマスは川を上らなくなり、鹿の数も減って、クマは植物を食べるしかなかったのです。古いクマのはく製や毛皮を分析すると、明治以前のクマは肉食であったことがわかっています。つまりクマの生態は人間社会と大きく関わりながら変化しているのです。

必要な「クマの目線」

今、人口が減っている日本ではクマの活動が優勢になりつつあり、獣害で困っている地域が増えています。もちろん人とクマは同じ場所では生きていけませんが、人の生活圏にクマが入って来るのは、自然環境の変化を含めてさまざまな理由があります。クマを観察して記録し続けることで、「クマの目線」で見た今の状況と、そこから起こる行動を人に伝わるように説明できるようになります。クマの生態研究では、人間社会とクマがうまくすみ分けていけるように、必要な対策を提案していくことも大切なのです。

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酪農学園大学 農食環境学群 環境共生学類 教授 佐藤 喜和 先生

酪農学園大学 農食環境学群 環境共生学類 教授 佐藤 喜和 先生

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野生動物生態学

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メッセージ

最近、「クマが牛を襲った」など、さまざまな野生動物のニュースが流れています。その一面だけを切り取ると「野生動物と共生なんてできない」と思うかもしれませんが、視点をずらしてクマの側に立ってみると、なぜそういうことが起きているのかが、全く違って見えてきます。動物に興味があるなら、野生動物が実際にどう暮らしているか、なぜ野生動物問題が起きるのかなどを、大学で調べたり経験したりして、視野を広げてください。今起きている問題を人の側からだけでなく、動物の立場からも考えられるかどうかはとても大切です。

先生への質問

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北海道の政治・経済の中心都市札幌から快速電車で10分、本学はそこに132haの広大なキャンパスを構えています。世界の人口が増幅を続ける中、40%前後の我が国の食料自給率は、今後ますます問題となるのは確実です。そうした環境下にあって、大地を健やかに育て、健康な食物を育み、それを食して健やかな人が育つ。こうした「循環と共生」をテーマに掲げながら、学生一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出せるような教育を実践することを使命と考えています。