シルクロードからバイオロードへ
蚕がつむぎだす新たな可能性
今ではあまり利用されていませんが、昔の日本では、衣類の生地はシルクが主流でした。19世紀初頭から産業化され、明治、大正には日本はシルク大国となり、一時は日本の輸出量の約6割を占めるほどでした。そのシルクを生み出すのが蚕という虫。蚕と人間との歴史は古く、約5000年前から養蚕は行われていたようです。蚕は、もはや人間の管理の下でないと生きていけません。
そんな蚕もシルクが使われなくなったことで需要が減少し、飼育農家も減ってきました。今では日本に代わって、インドや中国がシルク大国となりつつあります。ところが、日本の養蚕業に新たなビジネスチャンスが訪れようとしています。バイオテクノロジー分野です。
次はバイオでスターをめざす
蚕の病気に微粒子病があります。かつての難病も20世紀に入って一転。その原因がウィルスとわかると、それを機に蚕のバイオテクノロジーへの利用が始まったのです。
ウィルスの中に蚕を殺す遺伝子がありますが、それを削除し、代わりにタンパク質を作る遺伝子を入れます。すると蚕はシルクでなくタンパク質を作り出すのです。例えば、医療に使われるインターフェロンというタンパク質の遺伝子を組み込めばインターフェロンを大量に生産します。これを利用すれば、人間に必要なタンパク質を安価で世界中に販売することが可能となります。
さらに、養蚕の利点は飼育の容易さと安全性にもあります。蚕の飼育には大掛かりな設備や特定の環境を準備する必要がありません。また、蚕は人間の元を離れることができませんから、遺伝子操作をされた蚕が自然界に悪影響を及ぼすこともありません。なにより、人間との長い付き合いが安全性を証明しています。
蚕のようにバイオテクノロジーに利用できそうな虫は他にもいますが、実用まで時間が掛かるのです。蚕は数千年かけて人間が改良してきたからこそ、すぐに応用することができました。「シルク」から「バイオ」へ。一旦はスターの座からその姿を消した蚕ですが、再び表舞台で活躍する日も近いかもしれません。
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