カイコのシルクを再現し、環境問題解決に貢献できるか?
解決策はカイコのシルク?
繊維業界では、環境に高い負荷をかけていることが課題になっています。例えば、人工的に糸を作るために、熱をはじめとする多くのエネルギーを消費しているのです。この課題を解決するために注目されているのが、カイコやクモなどが作り出すシルクです。カイコは水に溶けたタンパク質から糸を作り出します。さらに、糸を紡ぐときも自分の体の動きを利用しているため、環境への負荷がとても少ないのです。もしカイコやクモがシルクを作り出す方法を模倣した新たな紡糸技術を開発できれば、環境に優しいものづくりに貢献できるはずです。
シルクの構造を分析する
カイコやクモがシルクを作り出すメカニズムはまだ解明されておらず、人間が似た糸を再現しようとしても強度などが下がってしまいます。そこで、まずはシルクの構造を明らかにしようという、研究が行われています。研究によって、シルクはただタンパク質を伸ばして作られるのではなく、何層もの階層構造になっていることがわかってきました。小さな分子を鎖状につなぎ合わせ、その鎖をさらに束ねていくことで、高い強度を実現しているのです。また、カイコの体内にあるタンパク質は、糸を吐くまでの間にさまざまな構造変化をしていることもわかってきました。カイコはタンパク質の濃度や水素イオン濃度、金属イオン濃度などを徐々に変化させて、シルクの階層構造を実現しているのです。
シルクが切り開く可能性
シルクはタンパク質でできているので、リサイクルがしやすい点も注目されています。服を一度溶かして医療材料にリサイクルする、タンパク質をさらに細かなアミノ酸に分解して飼料やサプリメントを作り出す、といったことも理論上は可能です。シルクは生産量が少ないため現状では高級品ですが、用途が広がって量産することができれば価格が下がり、布製品だけでなく、シルクでできたプラスチック製品や医療材料が使われる時代がくるかもしれません。
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福井大学 工学部 物質・生命化学科 准教授 鈴木 悠 先生
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