美しい天然繊維「絹」の未来を支える、カイコの遺伝子・ゲノム研究
品種改良が続けられてきたカイコ
美しい光沢があり、天然繊維としてSDGsの観点からも需要が高い絹は、カイコの繭から作られます。カイコがさなぎになるときに作る繭から引き出した繊維をより合わせたものが絹糸です。
カイコは「クワコ」という野生のガを家畜化した昆虫です。カイコを飼って絹糸を取る養蚕は、1万年から5千年前に中国で始まったと言われ、長い時間をかけて、カイコを飼育に適した性質に改良してきました。その性質の一つが卵の「休眠」です。卵の温度管理により、ふ化時期や出荷時期を調整できるのです。
季節に適応する生存戦略としての休眠卵
カイコは卵のときの外気温が15℃か25℃かで、次の世代の卵が休眠するかどうかが決まります。卵のときに、15℃にさらされたカイコが成長後に産んだ卵は1週間でふ化します。一方、卵のときに25℃にさらされたカイコは、「休眠卵」を産みます。休眠卵は胚の発育が止まり、5℃の環境に一定期間おいて覚醒させない限り、1年間ふ化しません。
この性質は、春(15℃)に生まれれば餌となる桑の葉が豊富にあるけれど、真夏(25℃)に生まれるとすぐに秋になり餌がなくなるという、昆虫がもつ季節の移り変わりに適応した性質を反映したものと考えられます。
カイコの遺伝子・ゲノム研究で期待できること
しかしカイコの原種であるクワコは、温度ではなく日長で休眠・非休眠が決まるという性質を持っています。そこでカイコの遺伝子から温度感受の機能をとり除いてみたところ、クワコと同様に日長を感受する性質が発現しました。つまり、原種のクワコにも温度感受の遺伝子があり、たまたまその機能が発現している個体を選択していった結果、カイコは温度で休眠・非休眠を決める性質になったと考えられます。
カイコの遺伝子研究はこのように品種改良の歴史を明らかにするとともに、養蚕業の未来も支えます。例えば、地球温暖化が進み、夏に幼虫を飼育することが困難になってきています。春に収穫した幼虫を常温で休眠させる研究も行われているのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
信州大学 繊維学部 応用生物科学科 教授 塩見 邦博 先生
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蚕糸科学、環境分子昆虫学先生が目指すSDGs
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