立体的な化学の世界
分子は立体的
高校までの授業では、メタン(CH4)は炭素と水素原子を十字架のような形で平面的に紹介されていますが、実は海岸に置かれているテトラポットのような立体的な形をしています。高校までの基礎教養としては、平面的な形をしているというとらえ方でも十分ですが、大学では原子の結び付きを正しく立体的にイメージできるセンスがとても大切になります。化学で扱う分子やイオンを目で見ることはできませんが、それらがどのように結びついていくのかということを理論的に予測することはできます。物質の性質は分子やイオンのそれによって決まりますが、分子そのものの形も大きく影響します。優れた機能を有する分子は、その形も美しいものです。ミクロの構成美に魅せられる感性を持って化学を見た時、化学の美学や文化の香りを味わうことができるようになります。大学では、化学についてのこうした思索を存分に巡らすことができます。
右と左の違い
旨味の成分として知られているグルタミン酸ナトリウムですが、実はL-体とD-体の2種類があり、L-体は旨味を感じさせますが、D-体には旨味がありません。二つのグルタミン酸の原子の構成は全く同じなのですが、原子の配列が鏡で映した像のように左右が逆になっているため、鏡像体と呼ばれています。同じ物質でも、原子の結び付き方が逆になってしまうと違う働きをすることに疑問を感じるかもしれません。右手と左手は同じ形をしていますが右手同士、左手同士の握手には無理があるように、あるいはパズルのピースを裏返しにしてもはまらないように、左右逆の形になってしまうとほかの物質に対しての働きに違いが出るのです。医薬品や生理活性物質を合成する化学では、鏡像体を分ける技術や鏡像体のうちのどちらか一方だけを選択的に合成する技術が盛んに研究されて、人類の幸福に寄与しています。
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