医療や化学分析に利用できる「熱変化を撮影する技術」
捨てられる熱エネルギーの有効利用
私たちの身の回りには、使わずに捨てられてしまっている熱エネルギーがたくさんあります。例えば、自動車に使われるエネルギーの60%以上は、熱として逃げてしまっていますし、工場や家庭で発生する熱も再利用されていません。地熱も有効に使われていない自然の熱エネルギーです。
最近は、こうした熱エネルギーを回収して発電に使う研究が進められています。熱エネルギーを効率よく、電気もしくは力学エネルギーに変換するには、熱と物質の移動を「制御」することが重要になります。このことは、大規模な発電だけでなく、最近注目されている超小型の発電機においても変わりません。
わずかな熱の移動を可視化する技術を開発
熱の移動を制御するためには、まず、どのように熱が移動するのかを知らなければなりません。熱の移動は温度変化として表れますので、温度画像をとることが有効です。しかし、超小型の発電機の内部の温度を、外側から直接測定することは、これまで不可能でした。サーモグラフィは、物体「表面」の温度画像を撮影する方法ですが、「内部」の温度は測定できません。そこで、現在開発が進められているのが、近赤外線を使って撮影する技術です。近赤外線はプラスチック、ガラス、生体などを透過しやすい性質がありますので、これらの材料で機器の内部構造を再現して、温度画像をとるのです。髪の毛ほどの細さの管の中で生じる熱移動を、画像としてリアルタイムでとらえることができます。
がんの温熱治療や自然現象の解明にも役立つ
この技術が完成すれば、さまざまな分野への応用が考えられます。
例えば、がんの温熱治療がそのひとつです。温熱療法はがん細胞に磁性体をつけて、それを外から磁気で加熱してがん細胞を破壊する治療法ですが、この技術を使って温度を制御できれば、治療の効果を高めることができます。また、化学反応や電磁波の吸収のように、熱の発生や移動をともなうさまざまな現象の秘密を解き明かすことにも役立てることが期待されています。
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