電気を流す有機物を作る
合成金属とは?
通常、有機固体は電気を流すのが苦手な絶縁体ですが、分子を適切に設計すると、金属に匹敵するほどよく電気を通す結晶を作り出すことができます。このような物質は「合成金属」と呼ばれ、1970年代に初めて作られました。有機物からなる半導体や超伝導体も含め、現在もさまざまな性質の有機固体が作られています。合成金属の研究は、物質中の電子の振る舞いを理解し制御するという点で、基礎研究と産業への応用の両面において重要なものになります。合成金属や有機半導体を材料として見たとき、有機物は原料として入手しやすく、作製に必要なエネルギーも少ない、また、環境負荷の大きい副産物が生じないといったメリットがあるのです。
原子を足したり入れ替えたり
合成金属を作るためには、分子結晶の中に自由電子を生み出すことが必要です。結晶中で分子が均一に並びつつ、一部の分子が酸化または還元された状態を作れれば、自由電子が生まれて電気が流れる状態になります。
現在の技術では結晶の中の分子を自在に並べることはできませんが、分子の一部を違う原子に変えたり、置換基を付けたりすることはできます。これにより結晶中での分子の配列や、分子中で電子が収容される軌道のエネルギーを変えると、電子が動く道筋や自由電子の数が変化し、電気的な性質を変えることができます。
失敗の原因究明が次への一歩に
電気を流す物質には、電気伝導性が磁石に大きく応答するものもあります。そのような分子結晶をつくるための材料の一つに、ポルフィリンという有機化合物があります。ポルフィリンは生物中で重要な役割を果たしている身近な分子ですが、その真ん中に金属イオンを取り込ませて、金属イオンが持っている電子とポルフィリンが持っている電子の双方を利用するのです。
新しい機能性物質を作る際は「分子をこうすれば固体の性質がこうなる」という予想を立てて進めますが、予想通りにはいかないことが多々あります。その原因を解明することが新たな知見につながり、科学を発展させていくのです。
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