触媒として未知の可能性を秘めた期待の物質「バナジウム」
触媒の基本的な働きを人間関係で説明すると
お互いにぜんぜん会話をしない田中さんと鈴木さんがいるとします。そこに佐藤さんが入って仲介すると、みんなで仲よく会話をするようになり、田中さんと鈴木さんの間につながりが生まれ、両者の関係が変化しました。やがてそこからサークルや会社などの組織が生まれ、個人ではできなかったことができるようになりました。
ここでの佐藤さんの役割は、化学の授業で習う「触媒」です。人間に個性があるのと同様、水素、酸素、鉄、コバルトなどの原子もそれぞれ異なる個性を持っています。触媒は、そんな物質同士の化学反応を促進させて、まったく別の物質に変化させる働きを持っているのです。
元素として微妙なサイズ
原子番号23のバナジウムという金属は、触媒としてさまざまな働きを持っています。酸化バナジウムは硫酸やプラスチックを作るときの触媒として欠かせないものです。鉄鋼にバナジウムを添加すれば強度を上げることもできます。
元素の周期表は重さの順に並んでおり、重くなればなるほど多くの電子を持っていて、サイズも大きくなります。原子番号1の水素は1つの電子、原子番号2のヘリウムは2つの電子、原子番号23のバナジウムは23個の電子を持っています。このサイズが元素としては中途半端で、条件によってほかの元素と結合できたりできなかったりします。果物を例に説明すると、メロンを詰めた段ボール箱のすき間には、みかん程度の大きさなら入れられるでしょう。バナジウムはこのすき間に入るか入らないかの微妙なサイズなのです。
バナジウムは多感な十代の少年?
バナジウムはすでに触媒としてさまざまに活用されていますが、その微妙さゆえに、さらに新たな触媒としての用途が発見されれば、新素材の開発につながるかもしれません。バナジウムは海水に多く含まれており、採取も比較的容易です。まだまだ未知の可能性を秘めた、多感な十代の少年のような物質、それがバナジウムなのです。
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金沢大学 理工学域 物質化学類 教授 林 宜仁 先生
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