乳牛から和牛が生まれる最先端技術

乳牛から和牛が生まれる最先端技術

牛の代理母出産

牛を育てている酪農家は、できるだけ効率のいい経営をする必要があります。乳牛であれば、脂肪分の高い乳をたくさん出し、さらに周期ごとに妊娠し、健康で長生きする牛が多い方がいいのです。そこで、優秀な雌牛の卵管や子宮から受精卵を取り出し、あまり繁殖能力の高くない雌牛に移植する「受精卵移植」という技術が用いられています。1頭の雌牛が一生涯に出産できる子牛は多くて10頭程度ですが、受精卵移植技術を使えば、数倍から数十倍の子牛をつくれるようになります。受精卵は凍結保存されて全国、海外に流通し、日本では1年間に約5万2000頭、世界では約52万頭の雌牛に受精卵移植が実施されています。

5年後には雌牛ばかり、雄牛ばかりの農家が出現

もう一歩先を行くのが、受精していない卵子を体外に取り出し、培養器内で精子と受精させてから子宮内に戻す「体外受精技術」です。日本は、世界でもトップクラスの技術力を持っています。この技術を利用すれば、食肉処理された雌牛の卵巣から卵子を取り出して、受精させてからほかの雌牛の子宮に戻したり、和牛の体外受精卵を乳牛に戻して、乳牛に和牛を生ませることもできます。和牛は高く売れるので、乳牛農家にとって副収入になります。さらに最近では、酪農家にとって価値のある雌牛だけを生ませるという技術も研究されています。雄をつくるX精子と雌をつくるY精子のDNAの量を測ると、Y精子の方が少し軽いのです。そこで、精子を1つずつ、非常に細いノズルのようなものに通して、レーザーを当ててDNAの量を測り、X精子かY精子かを判定します。この方法を使うと、約90%の確率で雌を生ませることができます。精子が少し弱ってしまうので受胎率が通常より低くなる、出産経験のある雌牛だと受胎率が大幅に落ちるなどの改善したい課題はありますが、今後、この技術が日本の酪農業界を変えていくと考えられます。5年後くらいには、この乳牛農家には雌牛しかいない、こっちの肉牛農家には雄しかいないなんてことになっているかもしれません。

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先生情報 / 大学情報

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 堂地 修 先生

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 堂地 修 先生

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メッセージ

酪農家がより効率的に経営するために、牛の繁殖をどう管理していくかを考えます。胚移植、体外受精、人工授精など、酪農家の牛を繁殖させるための専門技術の基礎を学び、現場で実践できる能力を身につけます。家畜人工授精師や家畜体内受精卵移植師などの資格を取れるので、日本の食料の安定供給を支えていくプロフェッショナルな仕事ができます。日本の繁殖に関する技術は世界でもトップクラスです。世界にも貢献できるスケールの大きな仕事ができると思います。

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北海道の政治・経済の中心都市札幌から快速電車で10分、本学はそこに132haの広大なキャンパスを構えています。世界の人口が増幅を続ける中、40%前後の我が国の食料自給率は、今後ますます問題となるのは確実です。そうした環境下にあって、大地を健やかに育て、健康な食物を育み、それを食して健やかな人が育つ。こうした「循環と共生」をテーマに掲げながら、学生一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出せるような教育を実践することを使命と考えています。