家畜の行動をまるごと観察
動物の行動を評価する
牛の世界は、群れの中で順位が厳密に決まっています。例えば、下位にいる牛が上位の牛と目が合うと、必ず下位の牛は目をそらします。こうした順位は基本的に体重の軽重で決まり、きちんと守られます。群れの中での順位を決めることによって、牛は争いを回避しているのです。
このように家畜の行動を観察し、それを科学的に評価するのが家畜行動学です。牛なら牛の行動をまるごと観察し、その中で見つけたわずかな痕跡から理由を推理・実証します。そのために、立つ、食べるなどの瞬間的な動作、次に1日の行動、そして1カ月から1年という長い期間での行動と、3つの時間軸に分け、細かく観察が行われています。
人間も動物も精神構造は同じ
牛の行動に、何度も舌を大きく回す動作があります。これは人間の貧乏ゆすりにあたる、ストレス行動であることがわかっています。同じ動きを繰り返すと、脳内にストレス軽減物質が分泌されるためで、一種の逃避行動と言えます。つまり、人間も動物も精神構造に大きな違いはないということです。
動物への「福祉」という観点から、また、その能力を最大限に発揮させるために、家畜のストレスを解消することが必要になります。そのためには、ストレスの影響によって生じる行動を見つけ、その原因を解消しなければならないのです。
調査・研究で酪農経営に貢献
また、飼育者が動物に与える影響を調べ、適切なコミュニケーションの方法を探る研究も行われています。人間との関係がうまくいかず、動物にストレスがたまることがよくあるからです。また、乳牛の場合は人間に慣れすぎると、大きくなってから近づきすぎて危険です。反対に、人間に慣れていない乳牛は、近づいただけで逃げてしまいます。このように、人間と動物の間には適度な距離が必要なのです。
こうした調査・研究から、家畜の生産性を上げ、効率的な牛舎の設計を行い、さらには適切な飼育方法を提案する家畜行動学は、酪農経営に直接かかわる学問と言えます。
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先生情報 / 大学情報
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 森田 茂 先生
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