感染症治療の「二刀流」?! 抗生物質とファージによる新たな仕組み
ばい菌に対抗してくれるウイルス
ウイルスというと体に害を与えるインフルエンザなど、怖いイメージがあるかもしれません。一方で「バクテリオファージ(ファージ)」という、人間や動物には感染せずに、細菌(ばい菌)にしか感染しないウイルスを病気の治療に活用するやり方もあります。ファージは特殊なウイルスで、ばい菌を攻撃、殺菌する役割を持っているのです。ただ、環境中にたくさん存在するファージの中でどれが殺菌作用を持つか、それをどうやって医療に生かすかについて考えていく必要があります。
環境に合わせて行われる「進化」に着目
現在、世界的に抗生物質が効きにくくなっているばい菌が増加しています。そこで薬剤耐性を持ったばい菌に別の薬で対抗して……と繰り返すと、これは永遠に続くイタチごっこと言えます。このような耐性を持ったばい菌を、抗生物質とは違う仕組みで殺菌してくれるのがファージです。しかしファージについての不明な部分は未だ多く、環境中や体内にいるファージを調査して、病気や体の健康そのものとの関連について知る努力が続けられています。
そこに課題としてあるのは、ばい菌退治にファージを使うと、こんどはばい菌が進化してファージ耐性を持つようになってしまうことです。それを回避するために、ファージ耐性に進化するばい菌を、効きにくくなってしまった薬剤の「感作」に向かわせることで、これまでの抗生物質がずっと活躍できるようにする独自の仕組みが開発されました。
感染症治療の新しい仕組みの基礎
これはファージと抗生物質の二刀流で、もし耐性菌が発生しても「薬剤耐性菌(ファージ効く)→ファージ耐性菌(抗生物質効く)」のように効くものを上手く変化させる仕組みです。現時点では、薬剤の感作のコントロールが上手にできる頻度を検討する段階ですが、今後はこの確率を100%に近づけることが目標とされています。また、この仕組みはさまざまなばい菌の対処にも利用できる基本的な理論ですから、広く持続可能な感染症治療の進展に役立つものと考えられます。
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酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 講師 藤木 純平 先生
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