より効率のいい酪農経営のために見直される人工授精技術

より効率のいい酪農経営のために見直される人工授精技術

日本のほとんどの牛が人工授精で生まれている

あなたは、牛乳をよく飲みますか? 牛肉料理はどうでしょう? 牛乳や牛肉は、今や私たちの食生活に欠かすことができません。家畜としての牛を改良し、より効率よく繁殖させる方法として、現在「人工授精」「受精卵移植」「体外受精」「クローン技術」の4つの技術が、世界的に利用されています。人工授精は、雄から精液を採取して、雌に人工的に注入し、妊娠させる技術です。1970年代から行われているので技術的には完成しており、現在日本で生まれる子牛のほとんどは、人工授精によって生まれています。しかし、近年の酪農環境の変化に合わせて、見直さなければならない点も出てきました。例えば、一軒の農家が数百頭の牛を一ヵ所の牛舎で飼うようになると、管理が追いつかなくなり、受胎率が減少します。以前は、一度人工授精をすれば、約6割の牛が妊娠したのですが、4割程度に減ってきています。子を生まない牛は肉牛として処理されますが、コストがかかるので、農家としては、健康で長生きし、1年から1年2ヵ月毎に出産する雌牛というのがベストなのです。

雌牛が最も妊娠しやすい時期を管理する

最近では、受胎率を上げるために、最も妊娠しやすい時間がいつなのかを特定できるようになっています。牛の発情期は、21日周期で12時間続きます。牛は発情するとよく動くようになるので、目で見てもわかりますが、何百頭もの牛をずっと見ているわけにもいきません。ですから足に万歩計を付けて、情報をコンピュータで管理しておけば、歩数の増えた牛が発情しているとすぐにわかります。
一方、牛全体の繁殖能力が高く、しかも体の大きさや食べる量にばらつきがない方が、効率よく牛を管理することができます。そのために遺伝的改良が行われているのですが、これには優秀な雄牛の精液を使います。繁殖能力の高い牛の精液は、0.5ccで1万5000円ほどで取り引きされており、中には一生の間に数億も稼ぐ種牛もいます。乳牛の精液は、海外からも大量に輸入されています。

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先生情報 / 大学情報

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 堂地 修 先生

酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 教授 堂地 修 先生

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メッセージ

酪農家がより効率的に経営するために、牛の繁殖をどう管理していくかを考えます。胚移植、体外受精、人工授精など、酪農家の牛を繁殖させるための専門技術の基礎を学び、現場で実践できる能力を身につけます。家畜人工授精師や家畜体内受精卵移植師などの資格を取れるので、日本の食料の安定供給を支えていくプロフェッショナルな仕事ができます。日本の繁殖に関する技術は世界でもトップクラスです。世界にも貢献できるスケールの大きな仕事ができると思います。

酪農学園大学に関心を持ったあなたは

北海道の政治・経済の中心都市札幌から快速電車で10分、本学はそこに132haの広大なキャンパスを構えています。世界の人口が増幅を続ける中、40%前後の我が国の食料自給率は、今後ますます問題となるのは確実です。そうした環境下にあって、大地を健やかに育て、健康な食物を育み、それを食して健やかな人が育つ。こうした「循環と共生」をテーマに掲げながら、学生一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出せるような教育を実践することを使命と考えています。