ウズラの家禽化からひも解く音声シグナルの複雑化

ウズラの家禽化からひも解く音声シグナルの複雑化

人と共生してきたウズラ

家禽(かきん)化とは野生鳥類の生活をヒトの管理下に置き、その繁殖をコントロールすることで特定の形質をもつ個体へと遺伝的に改変していく過程です。ウズラは日本で家禽化された動物で、その卵が食用となる産業動物として身近です。日本人とウズラの関係は古く、もとは鳴き声を楽しむ愛玩動物でした。オスの求愛行動の一つである雄叫びが「ゴキッチョー(御吉兆)」と聞こえて縁起が良いということから、武士や貴族の間で愛でられてきました。大正時代には鳴き声を競うコンテストもあったといいます。野生ウズラは、渡り鳥で、春から夏にかけて繁殖します。今日、野生のウズラの生息数は激減し、今では絶滅危惧種に指定されており、その生態は不明なことが多いです。

家禽になると雄叫びが長くなる?

ウズラの雄叫び「ゴキッチョー」を聞き比べてみると、家禽ウズラは野生ウズラより「チョー」の部分が長いことがわかってきました。また、野生ウズラよりも家禽ウズラの「ゴキッチョー」の方がより高い音と低い音を含んでいることがわかりました。ウズラの雄叫びの鳴き方は、学習によらない、つまり遺伝的に決まっていると考えられています。それが野生と家禽で違うということは、雄叫びの長さや音の高さをつかさどる脳の働き方や、発声器官の筋肉が、家禽化されたことで遺伝子レベルで変化したという仮説が考えられます。

環境か遺伝か

ウズラの雄叫びに変化を引き起こすのは遺伝要因だけでしょうか? 環境要因は影響しないのでしょうか? 家禽ウズラ、家禽ウズラと野生ウズラを交配させた交配系統(50%野生)、50%野生と野生の交配系統(75%野生)の種卵を研究室で孵化させて、同条件で飼育した異なる系統のウズラ間での雄叫びの比較が開始しました。この調査の結果から、ウズラの繁殖に重要な音声に変化を与える遺伝要因を明らかにできるかもしれません。謎に包まれたウズラの生態だけではなく、動物の音声コミュニケーションの複雑化の解明にもまた一歩近づくはずです。

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麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 准教授 戸張 靖子 先生

麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 准教授 戸張 靖子 先生

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動物行動学、動物心理学、生物音響学

先生が目指すSDGs

メッセージ

動物のあいさつには、相手の攻撃を避ける、友好関係を形成維持する。
これは人間でいうとあいさつにあたります。あいさつは人間関係の第一歩です。大きな声であいさつをすると、敵意がないことや相手を受け入れていることを伝えられます。無視されれば悲しい気持ちになりますが、あいさつをしてお互いを認めて尊重しあえば世界がハッピーになっていくでしょう。照れや恥ずかしさはあるかもしれませんが、勇気を出して自分からあいさつをしてみてください。

麻布大学に関心を持ったあなたは

はじまりは1890年に開設した東京獣医講習所でした。
まだ栄養状態が豊かでなかったこの国の、人の生活を豊かにするため、畜産の発展に寄与するため獣医師の養成をはじめました。それから約130年の時を経て、人の社会と動物のかかわりは深くなり、複雑になり、生きものすべてが新しいバランスで循環する「いのちのあしたのあり方」が求められています。
これが私たちの目指す「地球共生系」です。
最先端の研究と確かな実践力で、「人と動物と環境」に向き合い、地球のあしたをつくる。これが私たち麻布大学です。