医療用ゲルの開発で格段に進む新しい治療技術

医療用ゲルの開発で格段に進む新しい治療技術

水で膨れてできあがるゲル

多数の原子からなり分子量が大きい高分子。この高分子の鎖がからみ合った中に水分が入ってできた物質を「ゲル」と言います。ブヨブヨした固体で、身近なところではゼリー、コンニャク、豆腐などが挙げられます。紙おむつの吸水部分にもゲルが使われています。尿などの水分が加わるとゲル状になり、漏れなくなるという構造です。
体の中で唯一むき出しの臓器である眼球に直接触れるソフトコンタクトレンズも、高分子でできているゲルです。生体に接触するゲルは、医用材料として体内にも使われています。

止血と癒着防止ができるゲル

手術後の体内では、癒着という現象が起こり、臓器同士がくっつきやすくなります。一つの臓器にメスを入れたとすると、皮膚の切り傷が自然にくっついて治るように、修復しようとくっつきます。その部分にほかの臓器が触れていれば、その臓器ともくっついてしまいます。例えば、もし腸と別の臓器がくっついてしまうと腸が壊死してしまうこともあるのです。そこで、手術で切った箇所をゲルで覆い、ほかの臓器と接触しないようにすれば、癒着防止ができます。
また、手術中の出血はガーゼを傷口に押し付けて行うので、止血に時間がかかり手術時間が長くなるうえ、患者さんにも負担がかかっています。しかし、臓器組織に接着するゲルが作れれば、ばんそうこうのように傷口に貼り付けることによって短時間で止血でき、手術のスピードも上がるので、患者さんへの負担が軽減できるのです。
このように、さまざまなゲルが医療現場で活躍しています。このゲルの開発に必要となるのが、高分子化学の知識です。

さまざまな用途が期待される医療用ゲル

ゲルは、液体と固体の間の性質を示す軟らかい物質です。医療の用途に多く使われているのは、生体組織に一番近い素材であるためです。
今後、どのような高分子でどんな性質のゲルが作れるかはまだまだわからない部分も多いのですが、いろいろな高分子を使い、組み合わせを変えてさまざまな治療に使える医療用ゲルを作る研究が、幅広く進められています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

東京農工大学 工学部 応用化学科 教授 村上 義彦 先生

東京農工大学 工学部 応用化学科 教授 村上 義彦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

高分子化学、医学、医用工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高分子に関する知識は、高校ではほとんど習いません。しかし、高分子を開発するときには、高校での知識が必要なので、幅広く興味を持って勉強してほしいです。高分子材料は組み合わせてみないと面白みが出ないことが多いのですが、それも、もともとの知識があってこそ、知っているこれとこれを組み合わせてみようと発想できます。つまり、今すぐ役に立たないから勉強しないのではなく、いつか自分にどう生きるか、どう役立つかわからないからこそ幅広く勉強するのです。自分の可能性を否定しないで、あきらめずに勉強してください。

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東京農工大学は、自由な発想に基づく教育研究を通し、社会や自然環境と調和した科学技術の進展に貢献し、それを担う人材を育成します。民間機関等と行う大型の共同研究数は全国の大学で第一位です。MORE SENSEを基本理念とし、果すべき役割の大きさ、重さの自覚の上で農学と工学との協働をさらに進展させ、本学の特色を生かした教育、研究、社会貢献、国際貢献を一層前進させるための努力を続けていきます。