極限環境下における血液レオロジー:低温と高圧
赤血球は体の中の「運び屋」
血液の流れや凝固といった流動性について研究する学問を「血液レオロジー」といいます。なかでも赤血球は、肺から取り込んだ酸素を体の隅々に運ぶ、体の中の「運び屋」です。血中の赤血球の数が少なすぎると体内が酸素不足になり、貧血などの症状を引き起こします。逆に多すぎると血液の流れが悪くなり、血栓などの原因にもつながります。赤血球は血漿中でコインを積み重ねたような「連銭(れんせん)」という可逆的な集合体を形成しますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。現状では、「架橋集合」と「枯渇集合」のふたつのメカニズムが提唱されています。
低温にすると血液はどうなる?
血漿(けっしょう)タンパク質のひとつである「フィブリノゲン」は血液凝固の主要因子で、酵素トロンビンが作用するとゲル化し血液を凝固させます。ところがフィブリノゲンはトロンビンの作用がなくても、低温下で「クライオゲル」とよばれるゲルを形成することがわかりました。このゲルは常温に戻せば再びゾル状態になる熱可逆的なゲルです。このメカニズムを解明することにより、血液凝固についてまだ知られていない新たな知見が得られることが期待されています。
加圧すると血液はどうなる?
圧力には殺菌効果や、氷点下でも水を凍らせない性質があります。赤血球はデリケートな細胞のため保存が難しく、凍らせて解凍すると細胞が壊れ溶血を引き起こします。圧力は水の凝固点を降下させるので氷点下での不凍結保存が可能となります。実際に血液に圧力をかけると海底1万メートル相当の圧力まで溶血しないことがわかりました。つまり氷点下で血液の不凍結保存が期待できるのです。
現在は農学的な観点から、動物や植物の中に含まれる血液レオロジーを改善する生理活性物質の研究が進められています。例えば、「血液サラサラ!」がキャッチフレーズのように使われるタマネギや、群馬県特産の下仁田(しもにた)ネギの作用も注目されているのです。
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高崎健康福祉大学 農学部 生物生産学科 教授 外山 吉治 先生
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