脳と体の関係を考える理学療法士の仕事
体の動きは脳と密接な関係がある
例えばあなたの利き手である右手が事故で麻痺(まひ)したとします。一つの解決方法として、左手を右手と同じように使う練習が挙げられるでしょう。左手で文字を書いたり、生活に必要な動作ができるようになれば、一見、問題は解決したように思えます。しかし、この方法だけでは右手を使わなくなるために、右手を司る脳の部位が小さくなってしまい、本来使える右手の機能までどんどん失われてしまいます。この場合、理学療法士は、右手の潜在能力を評価し、回復に必要な刺激をしてみることも平行して行わなければなりません。
脳は外から見えないものですが、体の動きと非常に密接な関係があるので、体と脳の関係を見据えたリハビリを考えていくのが、理学療法士の大事な仕事です。
脳の疾患から起こる嚥下運動の障がい
リハビリを必要とする患者さんの中には、脳梗塞や脳出血など脳血管の疾患がある人がいますが、脳血管疾患の問題の一つに、物を飲み込む「嚥下(えんげ)」の障がいがあります。かつて嚥下は、物を飲み込む際、「反射」でのどぼとけが前上方に動き、喉頭蓋(こうとうがい)というのどのフタが閉じて食道入口が開くという一連の動きがなされるものと考えられていました。しかし、最近の研究では嚥下を「運動」ととらえる考え方が主流になっています。運動としての嚥下を阻害する要因を排除すれば障がいを軽減できるということで、嚥下だけでなく姿勢や呼吸のときに働く筋肉にも注目した療法が検討されています。反射という脳だけの問題ではなく、運動という体も含めた問題として、今後の治験のデータ蓄積などが注目される分野です。
理学療法士も初期段階から治療に関わる
理学療法士によるリハビリは、治療における「急性期―回復期―維持期―在宅」という一連の流れのすべての時期に関わります。特に急性期(病気のなり始めの時期)に再発の危険を管理しながら潜在能力を引き出すための適切な刺激入力をしていくことができるかどうかが、その後の生活レベルに大きく影響します。
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先生情報 / 大学情報
高崎健康福祉大学 保健医療学部 理学療法学科 教授 吉田 剛 先生
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