「表面」をつくる、精密科学が生んだ世界最小のX線ビーム

「表面」をつくる、精密科学が生んだ世界最小のX線ビーム

究極に平らな表面をつくる

物質を構成する最小単位の粒子は原子ですが、精密科学においてはこの原子の単位で制御して表面の構造や形をつくる研究が進んでいます。「表面の構造をつくる」とは、簡単に言えば表面を平らにすることですが、材料によって特性もさまざまで、原子を思い通りに引きはがして究極的に平滑化した「完全表面」をつくるのは容易ではありません。
求められるのは、東京-大阪間約500kmを段差5mm以下の平地にするのに匹敵する精密技術です。しかも、叩いて平坦にするのではなく、原子がきれいに並んだ状態のまま傷つけずに目的の原子だけをはがすのです。そのためには化学反応を起こして原子が自然にはがれるようにすることや、表面を高精度で測定する装置も必要になります。研究過程では、物理だけではなくあらゆる応用力や総合力が試されます。

世界最小! 直径7ナノメートルのX線ビーム

この「表面を加工する科学」の一つの研究成果が、世界最小のX線ビームの実現です。レントゲン検査などで用いられるX線は波長が0.1ナノメートルレベルと非常に短く、X線を集光して細いビームにするためにはX線を反射する滑らかな曲面をもつ鏡が必要です。定説では、直径10~20ナノメートルが集光の限界と言われていましたが、極限まで滑らかにした曲面鏡と、形を自在に変えられる2枚の平面鏡を組み合わせることでX線の波面を精密にコントロールします。世界でも最先端の放射光施設「Spring-8」との連携で、定説の限界を突破した直径7ナノメートルのX線ビームが実現しました。

超高精度のX線顕微鏡から生命科学の進展へ

これによって、X線顕微鏡で観察できる大きさの限界が小さくなり、これまで未踏の領域だった細胞のレントゲン検査も夢ではなくなりました。細胞内ではたらく薬の作用やタンパク質の動きなどを電子顕微鏡並みの精度で直接観察できることで、創薬や医学分野の進展につながり、連携研究による生命科学への貢献が大いに期待されています。

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大阪大学 工学部 応用自然科学科 物理工学科目 名誉教授 山内 和人 先生

大阪大学 工学部 応用自然科学科 物理工学科目 名誉教授 山内 和人 先生

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精密科学

メッセージ

学びも研究も、その発端は自分の中からわいてくる疑問です。なぜ?と思ったら、何がどうわからないのかを考えて道筋を探り、一段ずつ上っていく。マニュアルやどこかで得た知識を蓄えるのではなく、ほかの人が見過ごすような疑問を見つけ試行錯誤を繰り返すことが大事です。私たちが進める、表面を原子スケールで加工する技術研究も、あらゆる疑問をクリアにしてX線顕微鏡に応用することで、科学の進歩に貢献できます。裏方仕事のようですが、誰にもつくれなかったものを本当につくってしまうことが、ものづくり研究の醍醐味だと思います。

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。