環境共生住宅を維持するための意外な落とし穴
国や自治体が率先して建てた環境共生住宅
例えば、屋上庭園をつくり、壁面を植物で覆う。建物だけではなく、団地内にたくさんの緑を植え、雨水を活用できる設備を備え付けたりする。このような緑あふれる生活環境の実現と、省エネルギー効果も狙った環境共生住宅が、国や地方自治体によって積極的に建てられた時期がありました。では、こうした環境共生住宅に暮らす住民は、どう感じていたのでしょうか。
調査からあぶり出された意外な住民の意識
アンケート調査でわかったのは、驚くべき事実でした。住民たちの半分近くが、自分たちの住んでいる環境共生住宅にある設備のことを知らなかったのです。なぜ、そんなことが起こるのでしょうか。
一つには、最初の住民への説明が不十分だった可能性が考えられます。もう一つ考えられるのは、初めの住人にこそきちんと説明されたものの、引っ越しなどで後から入居した住民に対しては、じゅうぶんな説明がされていないケースです。特に賃貸住宅の場合は、住民の入れ替わりが激しいために説明が行き届かなかった可能性が高いでしょう。いずれにせよ、せっかく環境に配慮した設備が整えられているにもかかわらず、実際には活用されていないケースがありました。
建てた後の維持管理がポイント
敷地内にたくさん植えられた緑が、逆に問題になることもあります。維持管理費用の問題です。例えば、街路樹一つとっても、植えっ放しではダメなのです。定期的にきちんと手入れしないと、葉が茂りすぎたり虫が発生したりします。しかし、人を雇って手入れをするためにはお金がかかります。自治体が財政難の場合は、維持管理費の予算がつかないこともあります。
これが戸建ての住宅地なら、誰かが発起人となって、みんなでお金を出しあい、自主的に環境整備を進めることもできるでしょう。しかし賃貸住宅では、住民にそこまでの負担を求めることは難しいのが現状です。住環境をつくる場合には、建物や環境などの整備だけではなく、そこに暮らす住民心理にまで配慮する必要があるのです。
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大阪大学 工学部 地球総合工学科 建築工学科目 教授 横田 隆司 先生
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