天気予報への数理的手法の応用
数値天気予報を支えるナビエ・ストークス方程式
週間予報など現在の短期天気予報の主流は、数値天気予報と言われ、1.最新の気象データ(風速、風向、気圧、気温、雲の動きなど)の収集、2.大気の動きを記述する数学的モデルの提出、3.1のデータと2の方程式を合わせ、コンピュータを用いて大気の動きを予測する、という方法が用いられています。
気象現象というのは、大気や雲、海など地球上の流体の動きにより引き起こされる現象なので、予測には流体を記述することができる数学的モデルが必要となります。その最も基礎的な支配方程式として用いられるのが、ナビエ・ストークス方程式という非線型偏微分方程式です。
精度の高まりと同時に方程式の検証も
微分というのは、いくらでも小さくするという極限操作を通して得られる概念なので、コンピュータではこの方程式をそのまま扱えません。そのため実際には差分方程式に書き換え、さらに単純化したものを高速・大容量のコンピュータにのせて未来時間に向けた計算をさせます。
現在では、人工衛星の活用による観測データの蓄積やコンピュータ性能の向上により、短期予報の精度はかなり上がり、評価の高い日本の天気予報を支えています。さらに長期的気候変動予測への期待も高まっています。
一方、数学解析の立場からは、そもそもこの方程式が本当に未来の状態を一意的に決定することができるのか、その考察も同時に進められているのです。
異分野と絡み合いながら実用に貢献
このように日常的に利用される「週間予報」や「これからの雲の動き」にも、数理的手法が大きく関与しています。気象現象の観測の分野、その結果を方程式など数学の言葉で表すいわゆるモデリングの分野、そして数学解析の分野、それぞれが互いに絡み合いながら、検証や課題の提出、方向性の提示などが行われています。数学は机上で理論を展開するだけでなく、天気予報のような身近で実用的な情報にも大いに役立っているのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
奈良女子大学 理学部 数物科学科 教授 柳沢 卓 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
数学、物理学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?