人類はマラリアを根絶できるか
貧困がもたらす病、マラリア
世界で年間5億人が発症するマラリアは、ハマダラカ属蚊により媒介される原虫症です。発熱、貧血、脾腫を呈し、治療が遅れると脳マラリアなどにより死亡に至ります。その数は年間100万~300万人とも推定され、80%がアフリカの子どもです。流行地乳児は母体からの移行免疫により数カ月は保護されます。必然的な媒介蚊による頻回の感染により重症化を防ぐ免疫が加齢とともに形成されていきます。しかしこの獲得免疫は5歳以下ではじゅうぶんではありません。マラリアには有効なワクチンはありませんが、治療薬はあります。マラリアと貧困には強い相関がみられ、流行地小児が発熱などの症状を呈しても早期に適切な診断・治療を受けられない社会経済的環境が究極の問題であると考えられています。
南西太平洋ヴァヌアツ島嶼での挑戦
1991年から南西太平洋ヴァヌアツのアネイチュウム島でマラリア根絶へ取り組んできました。この島ではマラリア感染とともに700人程が自給自足の生活を営んでいました。隔絶された環境はマラリア根絶に有利と考え、島民の協力のもと雨季直前に蚊の寿命を鑑みた9週間の投薬を全員に行いました。あわせて殺虫剤処理した蚊帳の配布、ボウフラを食べる魚の放流などの対策を実施し、7年後にほぼマラリア撲滅が実現しました。マラリアの移入を防ぐための現地住民による全入島者や発熱患者へのマラリア検査が開始され、このサーベイランスは今なお続けられています。また年1回島民全員を検査しマラリア感染がないことも確認しています。
この島嶼モデルをアフリカへ
アネイチュウム島では、1991年からの20年間のマラリア撲滅維持をきっかけとして島を訪れるクルーズ船の数が倍増しました。その結果民芸品を観光客に売るなどして利益が島にもたらされ、その一部がマラリア検査強化や小学校改築に使われるという正の循環が生まれるに至りました。このアネイチュウム島をモデルにしたマラリア根絶への取り組みが、アフリカ・ケニアのビクトリア湖島嶼ですでに始まっています。
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