マラリアとの戦いが、新たな病原体への備えにも
細胞が記憶するワクチンと免疫の仕組み
例えば、はしかのワクチンを子どもの頃に打ったのに、大人になって感染することもあります。これはなぜでしょうか。体の免疫反応の結果生ずる抗体は、ウイルスそのものにくっつき、感染した細胞にはくっつきません。ワクチン接種だけでなく、実際の軽い曝露(感染)が加わることで、細胞のメモリが敵を忘れず、次にウイルスがやってきたときに免疫応答することができるのです。これを、抗体を介さない細胞性免疫と呼びます。
マラリアとの戦い方
マラリアは、世界中の研究者が30年ほども苦労してそのワクチンを研究してきました。世界で毎年40万人もの子どもがマラリアによって死亡しています。昭和の初期には日本でも流行した地域がありました。マラリア原虫は特定の蚊によって媒介され、宿主の体内で変態を繰り返していくやっかいな相手で、戦うステージが多すぎる難敵です。このワクチン開発にも細胞性免疫が求められます。病原体を不活化したり弱毒化したりして打つ従来のはしかワクチンなどと違い、現在は遺伝子情報を基に、標的とするタンパク質を作ります。それをワクチンにするには、COVID-19のようなRNAワクチン、弱毒ウイルスの中に遺伝情報を入れる方法、別の生物でそのタンパク質を作るといった方法があります。
マラリアワクチンはほかの病原体にも応用
マラリアの場合、感染者が多いのは開発途上国や貧しい国々であり、自力で研究費を投じることは難しい状況です。マラリア原虫は約5300もの遺伝子を持っていますが、COVID-19には数十しかありません。両者に共通点はなくても、マラリアのような難しい病原体に効くワクチンができたら、COVID-19も含めた、人類がこれから新たに遭遇する感染症に対応できると考えられ、重要なテーマとなっています。2013年頃に突如表れたエボラ出血熱以来、世界的にワクチン開発が研究者の使命になっているのです。
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金沢大学 医薬保健学域 医薬科学類 教授 吉田 栄人 先生
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