感染症からターゲットをチェンジ! 乳がんの創薬研究

感染症からターゲットをチェンジ! 乳がんの創薬研究

薬が効きにくいトリプルネガティブ乳がん

乳がんは日本人女性に最も多いがんで、9人に1人がかかると言われています。乳がんの治療、特に薬物療法の進歩はめざましく、乳がんは早く見つけて治療すれば治る病気になりました。
乳がんにはいくつかのタイプがあります。数多くの薬が開発されており、タイプに合わせてよく効く薬を選び治療できるようになりました。ただし、「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれるタイプによく効く薬はまだありません。若い女性に多く、悪性度が高いことがわかっており、新薬が待ち望まれています。

マラリアの薬で乳がんをやっつける

そこで、世界三大感染症の一つ「マラリア」の特効薬「アルテミシニン」をトリプルネガティブ乳がんの治療に転用するための薬学研究が行われています。マラリアは寄生虫が体内に入ることで起こる病気です。アルテミシニンは、赤血球の中に住み着いて、鉄をたくさん取り込んで増えるマラリアの寄生虫の中の鉄と反応して火花のようなものを出し、マラリアの寄生虫をやっつけます。がん細胞には鉄が多く含まれており、特にトリプルネガティブ乳がんの細胞には多いので、「火花」でがん細胞をやっつけようと考えられているのです。
このように、ある病気の薬を別の病気の治療に役立てようとする「ドラッグリポジショニング(既存薬再開発)」は創薬の方法の一つで、胃薬からドライアイの薬が作られるなどの実例があります。この方法には、新薬開発にかかる期間を短くして、優れた薬をより早く患者に届けられるという大きなメリットがあります。

乳がんと亜鉛の関係を探る

大切な栄養素として知られる「亜鉛」もまた、トリプルネガティブ乳がんを含む悪性度の高い乳がんの研究テーマの一つです。近年、糖尿病、がんなどさまざまな病気と亜鉛との関係が注目されています。乳がんについても、亜鉛を体内で運ぶタンパク質「亜鉛輸送体」が、乳がんの運命に関わっていることがわかってきています。乳がんの新薬の開発をめざして、そのメカニズムの解明が進められています。

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武庫川女子大学 薬学部 健康生命薬科学科 教授 中瀨 朋夏 先生

武庫川女子大学 薬学部 健康生命薬科学科 教授 中瀨 朋夏 先生

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薬学、生命医科学、薬剤学、細胞生理学

メッセージ

亜鉛が乳がんの進行に関わっていたり、マラリアの薬が乳がんに効いたりと、常識をくつがえす思いがけない発見があることが創薬研究の魅力です。薬を通して病気で苦しむ人を笑顔にできるというやりがいもあります。
乳がんは女性の人生に大きな影響を及ぼす病気です。私は乳がんで苦しみ悲しむ女性をゼロにしたいと思って創薬研究を続けています。手術の技術は進歩していますが、体にメスを入れるため、やはり患者さんの心身に負担がかかります。薬を飲むだけで乳がんが治る、それが研究の大きな目標です。

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