分子の「右手」と「左手」を見分ける魔法の触媒をさがせ!
毒にも薬にもなることがある分子
分子は三次元的な構造物ですが、時として「見た目はまるで同じでも、異なる分子」として生まれる可能性があります。「右手」と「左手」のように、鏡に映ったような分子同士の関係を「鏡像異性体」といいます。見た目は同じでも右手に左手用のグローブが入らないように、その性質は大きく異なる場合があります。
医薬品では、この右手型と左手型の分子が、身体の中で薬として作用したり毒になったりと異なる働きをすることがあります。そこで、身体の中に投与する分子をつくる際には、右手型と左手型を分けて合成する技術の必要性が生まれました。
「つくり分け」に導く不斉配位子
このように分子を選択的に合成することを「不斉(ふせい)合成」といいます。有機化学の中でもこの分野は、2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治先生をはじめ、多くの日本の研究者が活躍している、わが国が誇る強い分野です。
鏡像異性体が生まれる化合物で、どちらか一方をつくるための方法のひとつに、「触媒的不斉合成」があります。炭素と炭素をつなぐ反応そのものを担う金属に、右手型と左手型の差異を見分けられる不斉配位子(ふせいはいいし)という分子をくっつけ、反応が進行する方向を制御するものです。この不斉配位子をどうデザインし、効率的に働かせるかが研究の大きなテーマになっています。
デザインと試験を繰り返し、薬品づくりの基盤へ
最終的には、薬品を合成する際の基盤的な技術に応用されることをめざす研究ですが、ひとつの研究成果がすぐに薬品づくりに結びつくわけではありません。多くの研究者が得意な分子を切り口にして不斉配位子をデザインし、試験を繰り返し、薬品につながる中間体に使える分子の不斉合成へと進めていきます。そうした積み重ねから薬品ができるのです。
このように分子を「自在に制御してつなぐ」ということが一番の強みである有機化学は、応用範囲も広く、これから必要性がますます高まると期待されている分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 理学部 化学科 教授 神川 憲 先生
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