がんを効率よく狙い撃つ「粒子線がん治療」
「粒子線」を使ったがん治療
現在、日本人の死因の約3割を占めると言われるがんをいかに予防するか、またその効果的な治療法の開発に国をあげて取り組んでいます。中でも注目されているのが、今までのがん治療に使われていた放射線のX線やγ(ガンマ)線に替わる「粒子線」を使った治療法「粒子線がん治療」です。これには、大きなメリットが3つあります。外科治療が必要ないので体への負担が少ないこと、がん病巣だけにエネルギーが集中されるので体へのダメージが小さいこと、そして、がん細胞を破壊する効果が大きいことです。手術などの外科的治療ができない人や高齢者にも適しています。1940年代にアメリカの研究者ウィルソンが、がん治療のための粒子線利用を提案して以来、主にアメリカとスウェーデンで研究が進められ、日本では1979年から治療が始まりました。
がんだけを狙い撃ち
粒子線がん治療は、まずは特殊な機械でイオンをつくり出し、それを医療用加速器で光の速度の60%~70%まで加速させ、がん患者に照射します。粒子線の大きな特長は、体内の深い部分まで届き、スピードが落ちたところでエネルギーのほとんどを局部的に付与するということです。このように、体内でエネルギー付与が最大になる部分を「ブラックピーク」と言います。つまり、X線やγ線の多くが皮膚の浅い部分でも吸収されてしまい健康な部位にもダメージを与えてしまうのに対し、ブラックピークを持つ粒子線はがん病巣だけを狙い撃ちできるのです。
患者さんに合わせたオーダーメイド治療
照射は、患者さん一人ひとりのがん病巣の形に合わせて行います。CT(コンピュータ断層撮影装置)でがんの位置や大きさを特定し、縦、横、深さを病巣に合わせて照射するのです。粒子線がん治療は、厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療法「先進医療」のひとつです。特殊で高額な機械や施設を必要とするので、まだ全国でも10カ所程度の医療施設でしか受けることができませんが、地域に数カ所の割合で施設が整備されつつあります。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 工学部 物理工学科 原子核工学コース 准教授 土田 秀次 先生
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