アルツハイマー病の改善も期待できる、低線量放射線の影響
私たちの生活に身近な放射線
レントゲンやCTスキャンなど、医療の分野では検査や治療のために低線量の放射線を用います。何かと悪者扱いされがちな放射線ですが、重要なのは放出される放射線の量と時間、そしてその用い方なのです。これまで数百mGy(ミリグレイ)以下の低線量放射線の影響について詳しいことはあまりわかっていませんでしたが、現在、細胞やマウスを用いた実験から、さまざまな知見が得られてきました。
長期間の低線量被曝が細胞に与える影響
例えば、ラットの細胞株に1週間ほど200mGyの放射線を当てて影響を観察したところ、神経細胞の軸索の伸長が通常より遅れることがわかってきました。これはあくまで細胞レベルの実験ですが、人間の胎児で考えると成長が遅れてしまうことを意味します。また、1日あたり0.05mGyまたは1mGyの低線量放射線を400日間マウスに当てた実験では、肝機能の低下や寿命の短縮といった影響が報告されています。これらのことから、比較的低線量でも細胞に対して悪影響を及ぼすと考えられるかもしれません。しかし、さらに研究を進めると異なる現象も見えてきました。
神経細胞の活性効果で治療の可能性も
別の実験では、ヒト由来の神経細胞に1000mGyの放射線をごく短時間照射し、細胞の経過を観察しました。通常、神経細胞は栄養となる血清を与えることで90%程度の生存率を保ちます。血清を与えなければ神経細胞は少しずつ死滅し、2日で約60%程度の生存率となります。ところが、放射線を当てた神経細胞は血清なしの状態でも約80%の生存率を維持したのです。このことから、適切な量と時間での放射線の照射は神経障害性の病気、例えば、パーキンソン病などの進行を遅らせる可能性が考えられます。海外の事例でも、CTによる放射線被曝でアルツハイマー病の患者の症状が改善されたという報告があります。今後も詳細な調査を積み重ねることで、放射線との新しい関わり方も明らかになるでしょう。
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横浜薬科大学 薬学部 健康薬学科 教授(学部長) 加藤 真介 先生
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