講義No.04250 生物学

求む! 有能なガードマン~植物とアリの不思議な共生関係~

求む! 有能なガードマン~植物とアリの不思議な共生関係~

アリのコミュニケーションの方法は

「女王アリ」「働きアリ」のように、アリはそれぞれの役割を持ち、集団をつくって生活する社会性昆虫であることはよく知られています。彼らはなぜ同じ巣の仲間を識別できたり、一定のルールに従って行動できたりするのでしょうか? これにはアリの体表にあるワックスのような化学物質が関係しています。化学物質の組成がアリの種によって異なるため、同じ巣の仲間を識別できるのです。つまり、アリ自らが作り出す化学物質がコミュニケーションツールの役割を果たしているのです。

互いがいなければ生きていけない

アリは外敵に対してさまざまな防衛手段を進化させてきました。熱帯雨林にはその防衛力を利用して、アリをまるで住み込みのガードマンのように雇っている「アリ植物」がいます。例えば「オオバギ」という広葉樹は、茎に空間をつくってアリを棲まわせます。葉を食べる虫から身を守るためにアリに警備してもらい、その代償として葉から蜜を出してアリに与えているのです。この結びつきが非常に強くなり、お互いがいなければ生きていけないオオバギの仲間とアリもいます。

どうして相手がわかるの?

オオバギにもいろいろな種がありますが、興味深いのは、オオバギ属とアリの種ならなんでも共生関係が成り立つのではなく、特定のペアが決まっていることです。オオバギとアリの共生関係は、女王アリが棲むオオバギに定着して共生関係が始まりますが、どのようにして女王アリは特定のオオバギを探し当てるのでしょうか? アリ同士が体表のワックスで仲間だという情報を交換するように、何らかの固有の化学物質がオオバギから出て、アリがそれを情報として受け取るとも考えられますが、詳しいメカニズムはまだわかっていません。このように生物が自ら作り、別の生物の行動や生理に影響をもたらす化学物質を「セミオケミカル」と呼びます。セミオケミカルはそこに込められた情報を読み取って行動するための、いわば自然のバーコードなのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 理数情報部門 准教授 乾 陽子 先生

大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 理数情報部門 准教授 乾 陽子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

生態学、化学生態学

メッセージ

実は、私はもともと植物や昆虫が好きだったわけではありません。自分の強みである「化学物質の分析」を生かしていたら、化学生態学の研究者になりました。研究を続けるうちにアリや熱帯の植物とかかわるのが楽しくなり、今では東南アジアに出かけるのも田舎へ帰るような感覚です。
あなたが高校生のうちに将来の夢を決められなくても、焦ることはないのです。夢を持つことは大切ですが、自分が得意なことを伸ばしたり、自分ができることをコツコツ続けたりすることも大切だと思います。それがいつか、あなたの道となるでしょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

大阪教育大学に関心を持ったあなたは

本学は、我が国の先導的な教員養成大学として、教育の充実と文化の発展に貢献し、とりわけ教育界における有為な人材の育成をとおして、地域と世界の人々の福祉に寄与する大学であることを使命としています。この使命を達成するため、実践的な教職能力を養う優れた教員養成教育を推進し、豊かな教職能力を持って教育現場を担える学校教員を育成するとともに、学術と芸術の多様な専門分野で総合性の高い教育を推進し、高い専門的素養と幅広い教養をもって様々な職業分野を担える人材の育成をめざしています。