講義No.04249 生物学

アリになりすましてイイ暮らし~チョウの生態に隠された戦略~

アリになりすましてイイ暮らし~チョウの生態に隠された戦略~

自然界を他者の力で生き抜く昆虫

アリには、集団をつくって生活する働きものの昆虫というイメージがありますが、アリの仲間には鋭いあごや毒針を持つ、攻撃性の高い種がたくさんいます。彼らは働きアリなど役割分担をして仕事をこなし、しかも強靭な体で外敵を倒します。そういったアリたちを利用して安全に暮らそうとする虫がいます。そうした虫を「好蟻性(こうぎせい)昆虫」と呼びます。代表的なのが、シジミチョウの仲間です。

化学物質の力でアリを欺くチョウ

アリの巣は、ほかの昆虫にとってもパラダイスです。なぜなら常に食物が運び込まれ、外敵から攻撃を受けたらアリが戦ってくれるからです。アリにばれずに、巣の中にうまく侵入できれば、アリの恩恵を受けて暮らせます。しかし、アリが築き上げた巣によそ者が簡単に侵入できるわけはありません。そこでシジミチョウたちは、化学物質の力を使ってアリを欺くのです。
アリは体の表面に種に固有のワックスのような化学物質を持っていて、これにより仲間を見分けています。例えば「ゴマシジミ」というチョウの幼虫は、「シェンキクシケアリ」のワックスをまねて仲間と勘違いさせます。さらに、お尻から甘い蜜を出してアリを引き寄せ、巣まで連れて帰ってもらい、成虫になるまでシェンキクシケアリの幼虫や蛹(さなぎ)を食べて育つという知能犯です。

チョウの戦略は期限付き

また、ゴマシジミよりもっとアリとの共生関係が強いのは「クロシジミ」というチョウの幼虫です。「クロオオアリ」のワックスをまねて仲間に加わり、クロオオアリの巣でアリから口移しで餌をもらい、代わりに蜜をアリに与えながら成長します。まさに至れり尽くせりの待遇なので、クロシジミはクロオオアリがいないと生きていけません。
しかしチョウたちは羽化すると、化学物質の効力が薄れるのかアリたちから一斉に攻撃を受けるため、大急ぎで巣から脱出しなければなりません。進化の中で獲得したアリを欺く戦略も、期限付きなのです。

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先生情報 / 大学情報

大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 理数情報部門 准教授 乾 陽子 先生

大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 理数情報部門 准教授 乾 陽子 先生

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生態学、化学生態学

メッセージ

実は、私はもともと植物や昆虫が好きだったわけではありません。自分の強みである「化学物質の分析」を生かしていたら、化学生態学の研究者になりました。研究を続けるうちにアリや熱帯の植物とかかわるのが楽しくなり、今では東南アジアに出かけるのも田舎へ帰るような感覚です。
あなたが高校生のうちに将来の夢を決められなくても、焦ることはないのです。夢を持つことは大切ですが、自分が得意なことを伸ばしたり、自分ができることをコツコツ続けたりすることも大切だと思います。それがいつか、あなたの道となるでしょう。

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本学は、我が国の先導的な教員養成大学として、教育の充実と文化の発展に貢献し、とりわけ教育界における有為な人材の育成をとおして、地域と世界の人々の福祉に寄与する大学であることを使命としています。この使命を達成するため、実践的な教職能力を養う優れた教員養成教育を推進し、豊かな教職能力を持って教育現場を担える学校教員を育成するとともに、学術と芸術の多様な専門分野で総合性の高い教育を推進し、高い専門的素養と幅広い教養をもって様々な職業分野を担える人材の育成をめざしています。