アリになりすましてイイ暮らし~チョウの生態に隠された戦略~
自然界を他者の力で生き抜く昆虫
アリには、集団をつくって生活する働きものの昆虫というイメージがありますが、アリの仲間には鋭いあごや毒針を持つ、攻撃性の高い種がたくさんいます。彼らは働きアリなど役割分担をして仕事をこなし、しかも強靭な体で外敵を倒します。そういったアリたちを利用して安全に暮らそうとする虫がいます。そうした虫を「好蟻性(こうぎせい)昆虫」と呼びます。代表的なのが、シジミチョウの仲間です。
化学物質の力でアリを欺くチョウ
アリの巣は、ほかの昆虫にとってもパラダイスです。なぜなら常に食物が運び込まれ、外敵から攻撃を受けたらアリが戦ってくれるからです。アリにばれずに、巣の中にうまく侵入できれば、アリの恩恵を受けて暮らせます。しかし、アリが築き上げた巣によそ者が簡単に侵入できるわけはありません。そこでシジミチョウたちは、化学物質の力を使ってアリを欺くのです。
アリは体の表面に種に固有のワックスのような化学物質を持っていて、これにより仲間を見分けています。例えば「ゴマシジミ」というチョウの幼虫は、「シェンキクシケアリ」のワックスをまねて仲間と勘違いさせます。さらに、お尻から甘い蜜を出してアリを引き寄せ、巣まで連れて帰ってもらい、成虫になるまでシェンキクシケアリの幼虫や蛹(さなぎ)を食べて育つという知能犯です。
チョウの戦略は期限付き
また、ゴマシジミよりもっとアリとの共生関係が強いのは「クロシジミ」というチョウの幼虫です。「クロオオアリ」のワックスをまねて仲間に加わり、クロオオアリの巣でアリから口移しで餌をもらい、代わりに蜜をアリに与えながら成長します。まさに至れり尽くせりの待遇なので、クロシジミはクロオオアリがいないと生きていけません。
しかしチョウたちは羽化すると、化学物質の効力が薄れるのかアリたちから一斉に攻撃を受けるため、大急ぎで巣から脱出しなければなりません。進化の中で獲得したアリを欺く戦略も、期限付きなのです。
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大阪教育大学 教育学部 教育協働学科 理数情報部門 准教授 乾 陽子 先生
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