捕食者をSPに! 化学の目で探るシジミチョウの生存戦略
アリとWin-Winな関係にあるチョウ
地上性の多くの昆虫、特に鱗翅目(りんしもく)の幼虫にとって、アリは手ごわい捕食者です。シジミチョウの仲間はアリをうまく餌で手なずけ、自分のボディガードにしてしまう術を進化させてきました。約6,000種いるといわれるシジミチョウの仲間のうち、7割から8割の種がアリと共生関係にあります。アリと共生するシジミチョウの幼虫は体に蜜腺を持ち、アリが触角でたたくと糖とアミノ酸を豊富に含んだ蜜を出します。幼虫の周りには蜜をもらうためにアリが集まるので、その結果、天敵である狩りバチや寄生バチから守ってもらえるのです。
アリに随伴してもらうための工夫
アリにとって、シジミチョウの幼虫は餌場のひとつにすぎません。一方、シジミチョウにとっては、アリが来てくれるかどうかは死活問題なので、アリを誘引するための方策を講じます。ひとつは複雑な匂いを出すことです。アリは複雑な匂いのほうが学習しやすく、シジミチョウの匂いをいったん学習すれば、蜜を出すシジミチョウの情報を巣仲間同士と共有してくれます。また、蜜をなめたアリは、シジミチョウの周りにたむろするようになり、かつ攻撃的になるなど、行動が変化していました。これは、アリが蜜をなめることで脳内ドーパミン量が変化し、行動の変化が起きることがわかってきました。このことから、シジミチョウの蜜には栄養素のほかにアリをコントロールする麻薬のような物質も含まれていると考えられます。
アリに寄生する少数派
シジミチョウの中には、アリの社会に寄生する種もいます。ほとんどの鱗翅目の幼虫が草食であるのに対し、これらの幼虫は肉食です。アリは匂い(フェロモン)によって仲間かどうかを判断しているため、アリに寄生するシジミチョウは、アリの幼虫のような匂いを出してアリをだまし(化学擬態)、アリの巣へ連れて行ってもらうのです。アリの巣に入ったシジミチョウの幼虫は、働きアリに食事などの世話をしてもらいます。また、アリの幼虫を食べてしまう種もいるのです。
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