その魚、新鮮ですか? 測定困難な「鮮度」を手軽に見られる世の中へ
魚の鮮度を測る方法とは?
日本には魚を生で食べる食文化があります。よく好まれるのが刺身で、鮮度が命です。そのため昔から漁師さんや魚屋さんは、魚の目の澄み具合や赤いエラの鮮やかさ、身の締まり具合など、見た目や感触で鮮度を見極めていました。実は、そうしたプロの経験に頼らずに、化学的に鮮度を測る方法があります。それが「ATP(アデノシン三リン酸)」を使った計測です。ATPは、すべての動物や植物の細胞内に存在するエネルギー分子です。生命の維持に不可欠なはたらきをし、生き物が死ぬとATPは生成されず、別の物質に変化します。つまりATPの量が多いほど新鮮というわけです。
もっとラクに、効率よい測定を
ただ、ATPの測定には欠点があります。それは、筋肉内のATPを正確に抽出する必要があり、そのためには魚の腹をひらかなくてはならないのです。さらに、この作業は気温の影響を受けないよう、冷蔵庫内で行います。そして、こうして解体された魚はもう商品になりません。そこで、この問題の解決のために注目されたのが、ATPの自家蛍光する性質です。「蛍光指紋(けいこうしもん)」という測定技術で、光を当てたATPが発した蛍光の波長を計測し、鮮度を見ることができるのです。光を当てるだけなので時間もかからず、冷凍魚も測れます。鮮魚を冷凍して運搬する、市場の事情にもマッチします。
実用化への課題
しかし、ただ新鮮ならいいというわけではありません。マグロのように、熟成させた方が美味で、食品価値も上がる魚もあります。種類ごとに「食べごろ」の数値が定まれば、実用化に際して用途の範囲が広がるでしょう。
現在は、光の波長の数値を解析して新鮮さの基準になる指標を探しています。もし手軽に持ち運べるハンディタイプの測定器が開発できれば、真の実用化も夢ではありません。魚という生物を扱うがゆえの実験の困難さや、測定器を商品化するにも価格設定の難しさはありますが、一匹単位まで手軽に測定することで、現在の食品ロス問題の解決が期待できるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 准教授 柴田 真理朗 先生
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