講義No.04269 法学 社会学

虚偽自白による冤罪をどうすれば予防できるか?

虚偽自白による冤罪をどうすれば予防できるか?

冤罪が生じる最大の原因とは?

冤罪(えんざい/無実の罪に問われること)は、被疑者の人生を大きく狂わせます。当然ながら、防止しなければなりません。これまで日本で起こった冤罪事件を調査すると、大多数の事件で、被疑者が、無実の罪を「私がやりました」と認めています。これが「虚偽自白」です。
虚偽自白は冤罪に直結します。なぜなら真犯人でなければ犯罪を自分がやりましたと告白するはずなどないと考えられてきたからです。しかし、実際には、真犯人でない人が「私がやりました」と自白することがあるのです。

暴力に屈したわけじゃない

被疑者が虚偽の自白をしてしまうのはなぜでしょうか? 例えば拷問のような取り調べが行われていたなら、あなたもその理由をイメージしやすいかもしれません。しかし、ある冤罪事件では、取り調べが暴力的・脅迫的でなくても、虚偽の自白が生まれています。しかも、そのとき認めた罪は、確定すれば死刑になるほど重いものでした。
たとえ取り調べが暴力的・脅迫的でなくても、罪を否認して取調官と対立し続けるのは、私たちが想像する以上に、被疑者にとって精神的な苦痛をともなうということです。暴力・脅迫、誘導・暗示などを予防することは、もちろん重要課題ですが、虚偽自白の防止対策として完全とはいえません。

取り調べの可視化

冤罪を防ぐため最大限の努力をすべきです。今日、注目されているのが「取り調べの可視化」の提案です。それは、取り調べの一部始終を録音・録画し、後から客観的に検証しようというものです。主として、虚偽自白を生み出す暴力的・脅迫的な取り調べや、強度の誘導・暗示を予防することが狙いです。
取り調べの現場からの反対意見もあるので、制度として確立するには、まだ時間がかかるかもしれません。冤罪を防止するためには、被疑者を真犯人と決めつけて自白を得ようとする取り調べのあり方や、自白を最大の証拠とする考え方を見直すことが必要不可欠です。

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一橋大学 法学部  教授 葛野 尋之 先生

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メッセージ

進路を選択するにあたり、「自分のやりたいこと、好きなこと」を見つけたら、それが人々や社会、世界にとってどのような意味をもっているかを考えることが大切です。「自分のやりたいこと、好きなこと」が、他者や社会にとっても必要で意味があると思えるならば、自分の中での確信もいっそう強まりますし、それを実現するための道筋もより明確になります。進路選択は、他者との関係、社会との関係の中で自分の位置を見つける絶好の機会です。そしてそのような機会は、今後も人生の節目で訪れることでしょう。

一橋大学に関心を持ったあなたは

一橋大学の大きな特色として、まず第1に挙げられるのは、我が国で最も伝統のある社会科学の総合大学として、常に学界をリードしてきたという長い歴史と実績、並びにこの伝統を受け継ぎ、人文科学を含む広い分野で、新しい問題領域の開拓と解明を推進する豊富な教授陣に恵まれていることです。第2は、商学部・経済学部・法学部・社会学部の垣根が低く、学生は各学部の開設科目を自由に履修することができます。また、10人から15人程度の少人数で行われているゼミナール制度(必修)を核とする少数精鋭教育も本学の特色のひとつです。