世界の働き方から見た日本の職場と日本人の労働意識の特殊性について
企業の権利と労働者の権利、どちらが重要?
「企業は利益を追求する」という考え方は、日本でも外国でも同じです。ところがそこで働く人たちの労働時間や休暇に関する制度や運用は、日本と外国では大きく異なります。特に欧州各国では労働者が働く上での前提に人権があるのに対して、日本は人権よりも全体の和を重んじる精神が強い傾向にあります。そこには日本特有の法制度の歴史や、社会構造が影響しています。
日本人はなぜ法制度よりも慣習に縛られるのか?
日本最古の法である律令制度のベースはアジアの大陸から導入されました。多くの民族を統治するために強力な行政法や刑法を備えた律令に対して、農業や漁業を協力しながら営む日本では、より緩やかな格式や式目をアレンジして江戸時代まで継続されました。その後、明治維新で欧州型の法体系が持ち込まれ、第二次世界大戦後は米国中心の連合国による法制度が導入されました。つまり、日本では古くから輸入された借り物の法律と実際の生活習慣から自生的に根付いてきた慣習とのダブルスタンダードが生まれつつ、共同体で「人と違うことをしない」精神が育まれてきたと考えられます。
日本の働く環境は世界的な動向からズレている
国際社会は、戦前期に労働者の健康と人権に配慮して1日8時間労働制を確立させました。さらに戦後には、国際労働機関が「健康で文化的な生活のためには8時間労働でも長い」と発表したことを受け、特に欧州各国は、さらに労働時間を短縮し、休日や休暇の日数を増加させることをめざしています。他方、日本では、敗戦まで労働時間を制限するという考え方自体が希薄であり、8時間労働制が導入されたのは戦後になってからでした。しかも、その後も敗戦直後には速やかな復興のため、バブル期には豊かになるため、バブル崩壊後は経済的豊かさを再度取り戻すため、とにかく休まず働くことを価値としてきました。このように、多くの日本の企業の働き方また日本人の意識は、健康的で持続可能な働き方をめざす国際的な意識や動向からズレてるのです。
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創価大学 法学部 法律学科 教授 岡部 史信 先生
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