冤罪防止をめざす取り調べの可視化で裁判はどうなる
犯罪発生後の一連の手続を規定する刑事訴訟法
犯罪が起こったことが発覚すると、被害者などから警察や検察に届け出があり、犯人を見つけて証拠を集める捜査が行われ、起訴、そして裁判で有罪・無罪、有罪の場合の刑罰などが決まります。この一連の手続を「刑事手続」といい、その中で警察官や検察官ができること、裁判所ですることや被告人の権利などは「刑事訴訟法」に定められています。
取り調べの可視化が制度化
捜査での重要な情報収集のひとつに「取り調べ」があります。被疑者や関係者に警察官・検察官が話を聞くのですが、これまでは密室で行われてきたため、裁判になってから「そんなことは言っていない」「暴力をふるわれて本当ではないが言った」と翻されるトラブルもよく起こります。また、取り調べが適正に行われないと、冤罪が発生する原因の一つともなります。
こういったことを防止するため、取り調べの可視化(録音・録画)が議論され、試験的に実施されるようになり、2016年には刑事訴訟法が可視化の制度化を含め改正されました。
運用の仕方次第で公正な裁判が損なわれる
字面だけでは本当の意味合いが簡単にわからないのが法律の難しいところです。可視化についても運用上の課題が浮上しています。例えば、録音・録画を証拠として法廷で上映するかどうかの判断です。密室で行われているという構造は本質的には変わらないのに、上映された記録に裁判官や裁判員が大きく影響を受けてしまう可能性があり、「公明正大に裁く」という裁判の理念が損なわれることにもなりかねないのです。
ルールの理解の仕方によって証拠として使うかどうかの判断は変わるため、正解はありません。裁判官は研究者などの議論を通して提供されるいろいろな考えを参考に、一番合理的に説明できる判断を下すことになります。改正から3年以内に制度として動き出す可視化に向けた動きが広がっています。
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大阪大学 法学部 法学科 教授 松田 岳士 先生
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