遺伝子情報のつなぎ合わせで起こるエラーの原因を探る

遺伝子情報のつなぎ合わせで起こるエラーの原因を探る

免疫が働きすぎる病気がある

私たちの身体に備わっている防御機能、すなわち免疫システムが過剰に働いてしまう「膠原病(こうげんびょう)」という病気があります。膠原病は、関節がこわばり痛みをともなう「関節リウマチ」や蝶のような形の赤いアザができる「全身性エリテマトーデス」などの総称です。本来は細菌やウイルスをやっつけるはずの免疫システムが働きすぎて、自分自身をも傷つけ、炎症などを起こしてしまうのです。この病気は女性に多いことが特徴で、自己免疫疾患の一種とされています。

必要な情報はエクソンにあり

なぜ免疫システムが過剰に働いてしまうのか、理由はまだよくわかっていません。しかし近年の研究で、膠原病の発症にも遺伝子が関係することが明らかになってきました。
人体の60兆個もの細胞には、核の中に1セットのゲノム(全遺伝情報)が含まれています。ゲノムには、約2万2千もの情報(遺伝子)が入っています。遺伝子の中の「エクソン」という部分をつなぎ合わせて、身体を作るさまざまなタンパク質が生まれます。

一つの遺伝情報からできる物質は一つ?

その昔、エクソンをつなぎ合わせるパターンは一つしかないとされていました。ところがパターンは複数あり、できるタンパク質も一種類ではないことがわかったのです。これを「選択的スプライシング」と言います。つなぎ合わせるパターンが違えば、違う機能を持つタンパク質が生まれます。例えるなら、The dog runs and eats.という情報からruns and を読み飛ばしてもThe dog eats.と通じますが、意味は変わってしまうことと似ています。
医学の分野では現在、選択的スプライシングの過程で何らかのエラーが起こり、変異したタンパク質が生まれ、それが膠原病などいろいろな病気の原因になるのではないかと考えられています。原因が解明されれば、有害なスプライシングを抑制する薬や画期的な治療法も開発されることでしょう。

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神戸大学 医学部 保健学科 検査技術科学専攻 准教授 駒井 浩一郎 先生

神戸大学 医学部 保健学科 検査技術科学専攻 准教授 駒井 浩一郎 先生

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分子生物学、免疫学、医学

先生が目指すSDGs

メッセージ

勉強には答えがありますが、研究には答えがあるかどうかもわかりません。しかし発見した重大な事実は、必ず時を超えて次の世代へ受け継がれ、人類の英知を豊かにします。
私は生命を根本から知りたくて理学部に進み、その後勤めた研究所での「ヒトの遺伝子多様性に関する研究」をもっとしたくて医学部に移りました。ヒトの特徴も病気へのかかりやすさなども、DNAとそこからの情報発現によって決められています。個人を定義する究極のソフトウエアとも言える遺伝子の世界に興味を持ったら、ぜひ生命科学系の学部に進んでください。

先生への質問

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神戸大学は、国際都市神戸のもつ開放的な環境の中にあって、人間性・創造性・国際性・専門性を高める教育を行っています。
また、神戸大学では、人文・人間系、社会系、自然系、生命・医学系のいずれの学術分野においても世界トップレベルの学術研究を推進すると共に、世界に開かれた国際都市神戸に立地する大学として、 国際的で先端的な研究・教育の拠点になることを目指します。