患者にも看護師にもメリットが多い、医療現場での「聞き書き」

患者にも看護師にもメリットが多い、医療現場での「聞き書き」

患者の本当の思いに寄り添う

糖尿病などの生活習慣病の悪化予防には、食事や運動などの改善が不可欠です。しかし、それができない患者は、自己肯定感が低下することもあります。そんな患者に寄り添い、サポートするのが看護師です。
そこで、取り組まれているのが看護師による「聞き書き」という手法です。高校生が対象に行われている「聞き書き甲子園」は、名人の活動継承が目的とされています。しかし、看護師が行う「聞き書き」の目的は、1.患者自身の心の回復を高めるため、2.学生や医療者が対象者を理解するため、3.他患に対してのメッセージという3つがあります。

患者が自身の思いに気づく

「聞き書き」は、語り手(患者)が自分のことを語り、聞き手(看護師)が語り手の言葉を使いながら文字にして、語り手の「自分史」を作るものです。出来上がった自分史は、冊子やカードにして患者に渡されます。文字という視覚情報になることで、患者は客観的に自分を理解できて、看護師側は記憶に残るという効果があります。
看護師は、患者が生きがいにしていることや、病気についての思いなどを聞き取ります。患者は自分にどんな思いがあるか、何を求めているかに気づく機会になります。それが、病気と向き合う力になるのです。
また、自信満々に見える人が、実は自分のいい加減さに悩んでいたり、余命わずかな人が、家族に言えなかった言葉を伝えてきたりします。患者の言葉は、症状や治療方針など、同じ疾患をもつ多くの人へのメッセージとしても活用できます。

患者を理解した看護が可能に

「聞き書き」は、看護師と患者との距離が縮まり、患者を理解したケアにつながります。また、「聞き書き」によって患者は自分が何を考えているのかという自己理解が深まります。さらに、周りの人への信頼関係を取り戻したりすることもあります。
この手法は、看護学、心理学、教育学などに基づいて検証されています。看護師をめざす学生や新人看護師でも実施しやすい手法として改良しており、高い効果が期待されています。

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群馬大学 医学部 保健学科 看護学専攻 教授 岡 美智代 先生

群馬大学医学部 保健学科 看護学専攻 教授岡 美智代 先生

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臨床看護学

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メッセージ

いろいろなことに興味をもって、「読む、書く」ことをしましょう。本でも、ネットでも、一つ一つの言葉を意識してみてください。その場でメモをして、調べてもいいでしょう。文字にして書くと、記憶への定着率が高まります。実際のコミュニケーションでも、例えば「がんばっています」の一言では、何をどうがんばっているのかわかりませんが、具体的に、何をどう行動しているのか聞くと、その人のことがわかってきます。言葉を意識的に使って「聞く」ことができるといいと思います。

先生への質問

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群馬大学は北関東を代表する総合大学として、優れた人材を育成し、学問の研究と応用、福祉への貢献など、社会的使命を果たすことを特色としています。「社会のニーズに配慮しつつ細分化から総合化へ」という理念を研究面、及び教育面に具体的に実現させ、「研究活動面における社会との連携及び協力」に高く評価される形となって生かされています。