宇宙物理や医療への応用が期待される「レーザー駆動イオン加速」

高強度レーザーでイオンを加速
授業などで使われるレーザーポインタの約1千兆倍もの強さの高強度レーザーを物質に照射すると、物質がプラズマ化してイオンビームや電子ビームなどの放射線が飛び出します。電場や磁場の影響で加速された電子のあとを追ってイオンも加速されるため、この技術は「レーザー駆動イオン加速」と呼ばれます。
これに対して電場を使った従来の加速技術は、かけられる電場に上限があることから、電子に比べて重いイオンを加速するには長い距離が必要で、必然的に加速器が大型化してしまいます。例えば、加速したイオンを照射してがん細胞を殺す粒子線がん治療には100メートル四方ほどの大きな加速器の施設が必要です。レーザー駆動イオン加速の技術を応用して加速器を小型化できれば、より多くの病院で粒子線がん治療ができると期待されます。
プラスチック板でイオンを検出?
加速器を使ったイオン加速の場合、イオンの飛ぶ向きやエネルギーを決定できますが、レーザーを使った加速では、イオンの向きやエネルギーの制御はまだできません。そこでレーザーによるイオンビームの質を向上させるために、飛び出してきたイオンを検出・計測してデータが収集されています。
既存の検出器は電子やX線もとらえてしまうため、イオンだけを検出するのが困難でした。そこで、プラスチック板を使った固体飛跡検出器が着目されました。電子よりもずっと重いイオンがプラスチック板にぶつかると、プラスチックの分子の結合がイオンの通り道に沿って切れます。このプラスチックを溶かせば、イオンがぶつかったところが光学顕微鏡で観察できる穴になり、その穴の形状からイオンの種類やエネルギー、飛んできた向きがわかるのです。
超新星爆発のメカニズム解明のヒントにも
ところで、レーザーでイオンが加速される瞬間のメカニズムは、実は超新星爆発など宇宙空間で粒子が加速されるメカニズムに似ています。そのためイオンビームの計測は、医療だけでなく宇宙物理学の理解にもつながると期待されています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
