人間の免疫機能を利用したセンサを開発しよう
人間の体は病気を見分けられる
人間の体内に病原体が入ると、免疫系がそれに対応する抗体を作り攻撃します。免疫系は病原体の種類を見分ける仕組みを持っていることから、この機能を利用して病気の診断をするセンサを作れないかと、古くから考えられてきました。しかし今なお、免疫センサは一部を除きほとんど実用化に至っていません。血液内にはさまざまな物質があるため、いわば雑音の多い状態で、場合によっては抗原のシグナルより大きくなるため、病原体を見つけるのが難しいのです。
病原体は回転が遅くなる!?
ところで、蛍光物質を使い、分子の回転運動を調べる技術があります。例えば人間が食事をすると、食物からとりだしたエネルギーをATP(アデノシン三リン酸)という物質に変換します。その際に働くタンパク質分子がどのように回転をしているか、といったことを観察するのに使われているのがこの技術です。この技術を応用すれば、免疫センサを作れる可能性があります。病原体の抗原の多くはタンパク質で作られているのですが、タンパク質は分子が大きいため、抗体に結合すると回転速度が遅くなります。したがって抗体の回転が遅くなったものが病原体だと判断できるわけです。回転が遅くなるのは抗原と結合した抗体だけなので、この方法なら雑音の影響も受けません。
同時に複数の検査が行えるのがメリット
既存の病原体検出方法は優秀で、例えばインフルエンザにかかったとき、すぐに型を判別することができます。免疫センサの性能はこうした技術と比べると劣るのですが、一方でさまざまな検査を同時にできることが有利な点です。例えばガラス基板の上に何種類かの抗体を並べ、そこに血液を一滴垂らせば、並べた抗体の数だけチェックすることができます。
近年、グローバル化や地球温暖化の影響で、今まで日本になかった感染症が増加しています。医師でも原因を突き止めるのが難しいとき、免疫センサでの診断が役立つ可能性があるのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
成蹊大学 理工学部 理工学科 教授 鈴木 誠一 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
計測工学、医用生体工学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?