今も昔と変わらない、寄生虫に感染する危険性

今も昔と変わらない、寄生虫に感染する危険性

今も寄生虫が猛威を振るうことがある

昔は日本は衛生管理が十分でなかったため、寄生虫は身近な存在でした。フィラリアやマラリア原虫といった危険な寄生虫もいたので、その怖さを人々は認識していました。現代は寄生虫に対して無防備になっていますが、実は今もその危険性はなくなっていません。ペットブームや新しい食習慣の流行、地球規模での激しい物流など、私たちの生活が大きく変わる中で、これまでは知られていなかった寄生虫が人間に感染し、猛威を振るうこともあります。そこで、どんな寄生虫がいて、どういうルートで人に感染するのかを把握し予防することが大切になります。

キタキツネを宿主として広がるエキノコックス症

例えば、北海道でエキノコックスという寄生虫を原因とする病気がはやっています。エキノコックスは、キタキツネの腸管に寄生するサナダムシです。糞便によって虫卵が周囲にばらまかれ、これを通常はネズミが捕食して、その中で幼虫が育ちます。そして、そのネズミをキタキツネが食べて、寄生虫が増えていきます。この病気は治療薬がなく、人に感染すれば最悪の場合には死に至る恐れもあり危険です。今、北海道では、キタキツネが異常に増えています。そのため、水や野菜などを媒介にして、人が寄生虫に感染しやすくなっているのです。

ペットで人気のアライグマに寄生する回虫

現在では一般の人の輸入は禁止されていますが、1980~2000年頃まではアライグマがペットとして人気でした。この動物は北米に多く生息しますが、アライグマにはアライグマ回虫が寄生し、子どもたちに病気を引き起こすことが大きな問題となっています。これも治療薬がなく、感染すると失明したり、麻痺などの後遺症が残る危険な病気です。また、小鳥やリスなどに致命的な感染が起こるので、生態系が大きな影響を受けています。日本では、現在、沖縄を除く46都道府県すべてでアライグマが野生化し増え続けています。このようなアライグマに回虫感染がないことを確認し、安心して生活できる環境を守っています。

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山口大学 共同獣医学部 獣医学科 教授 佐藤 宏 先生

山口大学 共同獣医学部 獣医学科 教授 佐藤 宏 先生

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獣医学

メッセージ

私は寄生虫について研究しています。かつて日本には多くの寄生虫がいましたが、今日の日本にも寄生虫はいるのでしょうか。実はたくさんの寄生虫が、私たちの身のまわりにいます。生活環境、例えば、食品や水に寄生虫は潜んでいるのです。そんな寄生虫を見つけ、それが私たちの健康や動物の健康を脅かさないように、研究を進めています。顕微鏡で見ると、寄生虫は実に不思議な形をしています。また、面白い特性もあります。寄生虫の秘密を知ると、生物学の真髄に触れることもできるのです。

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