寄生虫の絶滅は、生物多様性を損なう
もっと寄生虫にも注目を
イリオモテヤマネコやアマミノクロウサギなどは絶滅のおそれがある動物として知られています。また絶滅したトキを復活させようと、放鳥が行われています。こうした活動は、どうしても一般の目が集まる動物の保護に力を注ぐ傾向にあります。しかし生物多様性の観点からすると、もっとほかの生き物にも注目する必要があります。
例えば「寄生虫」です。動物には何種類もの寄生虫がみられますが、仮に平均して1種につき3種の寄生虫がいるとすると、全動物の約4分の3は寄生虫になります。さらに寄生虫に寄生する寄生虫もいるので、動物の大半は寄生虫なのです。また、寄生虫はあまり好かれる存在ではありませんが、動物に有害とは言い切れません。寄生虫がいると抗体ができて、寄生されている宿主(しゅくしゅ)にとって有害なほかの寄生虫を排除する場合もあります。巻き貝では寄生虫がほかの寄生虫を捕食している例もあります。花粉症を防ぐ寄生虫がいるとも言われています。
動物と同時に絶滅
動物が絶滅すると、それに特異的な寄生虫も絶滅します。絶滅危惧種だけを宿主とする寄生虫は、同時に絶滅のおそれがあります。トキの羽毛に付くトキウモウダニ(ウモウダニ類は鳥類の羽毛につく老廃物を食べているので厳密には寄生虫ではありませんが、ダニの仲間であり、宿主の体表に住んでいるのでここでは「寄生虫」とみなしておきます。)は、日本で野生のトキが絶滅したことにともない絶滅しました。しかしごく最近、中国から譲り受けたトキとともに日本にやって来ました。トキの野生復帰は、ダニの野生復帰でもあったのです。
寄生虫を守ろう
絶滅のおそれのある動物を載せる『レッドデータブック』に、寄生虫をもっと載せようという動きがあります。最近までたった2種しか掲載されていませんでしたが、2013年の見直しでようやく3種が追加されました。日本では、少なくとも20種類前後の寄生虫に絶滅のおそれがあります。生物多様性が注目されている時代、寄生虫にもっと目が向ける必要があるのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
富山大学 理学部 自然環境科学科 教授 横畑 泰志 先生
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