生き物をデザインする? ゲノム編集とその可能性

動物実験の必要性
私たちの体には、まだ解明されていない仕組みがたくさんあります。特に病気の原因や治療法の研究では、現在では細胞をベースとして研究が進められていますが、それでも動物を使った実験は欠かせません。
例えば、動物に薬を投与すると、体がどのように反応するかが観察できて、その結果からさまざまな仮説が立てられます。ただし、それが本当に正しいのかを確かめるには、さらに動物の遺伝子を操作して実際の動きを調べる必要があります。
ゲノム編集を役立てる
そこで活躍するのがゲノム編集の技術です。この技術を使えば、特定の遺伝子をなくしたり、新しい遺伝子を加えたりできます。例えば、クラゲが持つ蛍光タンパク質の遺伝子をマウスに組み込むと、マウスの体が光るようになります。さらに、体の一部だけを光らせることもできるので、細胞の動きや病気の進み方を調べる研究に役立っています。
このような技術は、がん研究にも活用されています。がん組織には多くの遺伝子変異がありますが、その中から本当に病気に関わる遺伝子を見つけるのは簡単ではありません。そこで、遺伝子を変異させた実験動物を使い、がんの原因となる遺伝子を探る研究が進んでいます。これにより、新しい治療法の開発が期待されています。
以前から似た技術はありましたが、時間もお金もかかるのが問題でした。ところが、2020年にノーベル化学賞を受賞した新しいゲノム編集技術により、研究がより早く、効率的に行えるようになりました。
食料への活用
また、ゲノム編集は食料の分野にも応用されています。例えば、トラフグの成長を早める研究では、食欲を抑える遺伝子を壊して、少ない餌でも太りやすい品種を作り出しました。このような、遺伝子を「壊す」方法の場合、そうした遺伝子の変異は自然界でもまれに起こるものであるため、安全性が高いと考えられています。ゲノム編集技術は医療や食料生産に大きく貢献しています。正しい知識を持ち、適切に活用することで、私たちの未来をより良いものにする鍵となるのです。
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麻布大学獣医学部 動物応用科学科 講師寺川 純平 先生
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