ヤモリが壁に貼りついて歩けるのは「弱い力」のおかげ?

ヤモリが壁に貼りついて歩けるのは「弱い力」のおかげ?

ヤモリはどうして壁から落ちないのか?

ヤモリは、爬虫類のトカゲの仲間で、身近でもよく見かける生物です。垂直の壁や窓ガラスでも、ぴったり貼り付くようにして動き回れるという特徴を持っています。しかし、ヤモリの足には、タコのような吸盤があるわけではなく、カタツムリのように粘液を出しているわけでもありません。では、どのような仕組みでヤモリは垂直の壁に落ちないで貼りついていられるのでしょうか?

壁の凸凹に噛み合う微細な毛

ヤモリの足の裏には、趾下薄板(しかはくばん)と呼ばれる器官があります。この趾下薄板の表面には、マイクロメートル(1000分の1ミリ)サイズの剛毛があり、それらの剛毛は、さらに細いナノメートル(マイクロメートルの1000分の1)サイズの毛の集合によって構成されています。これらの非常に細い毛が、壁の表面の凸凹に噛み合わさると、そこに「弱い力」が生じます。これは「ファンデルワールス力」と呼ばれているもので、原子や分子の距離の6乗に反比例して働くため、距離が近ければ近いほど強く引っ張られます。ヤモリの趾下薄板のように非常に細い毛のある器官なら、壁の表面の凸凹に噛み合った時にこのファンデルワールス力が作用して、吸盤や粘液の助けを借りることなく、垂直の壁にも貼りつくことができます。ヤモリが壁から落ちない秘密は、この「もっとも弱い化学結合」と呼ばれるファンデルワールス力にあるのです。

研究が進められているファンデルワールス力

ファンデルワールス力は、さまざまな原子や分子の間に見られる相互作用ですが、結合力の弱さや明確な方向性のなさから、化学結合に基づいて分子を形成する研究においては、ほかの化学結合に比べるとやや肩身の狭い存在でした。しかし最近では、このファンデルワールス力を生かした精密な分子の集合体を形成する研究や、より正確にファンデルワールス力を見積もるための研究が進められていて、生命現象の解明や物質開発の分野などで役立つことが期待されています。

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東京大学 教養学部 統合自然科学科 教授 平岡 秀一 先生

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メッセージ

高校生の時の勉強で大切なのは、「何がわからないのか」を知ることだと思います。教科書や授業で習ったことを「わかったつもり」になっても、それは「わかった」こととは違います。何が、どこまで「わかっていて」、どこからが「わかっていない」のか、その線引きができるようになることは、何事においても大切です。「こうだ」と言われている定説を頭ごなしに受け入れるのではなく、なぜそうなるのかというところからじっくり考えてみるといいでしょう。

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