イギリスがEUから離脱する日は来るのか

イギリスがEUから離脱する日は来るのか

イギリス政治が動く

2013年1月、イギリスのキャメロン首相が「2017年末までに、EUに残るかどうかを問う国民投票を実施する」と明言し、2016年6月に投票が実施され離脱が決まりました。この言葉の意味をイギリス外交の歩みから見ていきましょう。
イギリスは第二次世界大戦で戦勝国側だったものの、戦争で国力は低下し、植民地の独立によって帝国は縮小、単独では戦前のような世界的大国ではいられなくなりました。
そこで、イギリスでは「イギリス帝国と英連邦」、「英語圏の国(特にアメリカ)との関係」、そして「統合ヨーロッパとの関係」という3つのサークルの中心にいるべきであるという外交原則が提唱されました。発案者は保守党のチャーチルでしたが、対立政党の労働党もこの原則を共有しました。

イギリスと統合ヨーロッパ

上に「統合ヨーロッパ」という言葉が出てきましたが、チャーチルがこの言葉を提唱した当時(1948年)、まだヨーロッパに共同体はありませんでした。1967年にEUの前身、ヨーロッパ共同体(EC)ができましたが、イギリスがECに加盟したのは1973年と6年も遅れてのことでした。加盟後もイギリスは中心国であるフランスや西ドイツとなかなか足並みをそろえず、「やっかいなパートナー」にとどまりました。

離脱したら

1993年のEU発足後もイギリスはその一員です。しかし2013年に冒頭の発言がなされた背景には、EUの経済危機もありますが、保守党内に反EU派議員が一定数いることや、右派メディアやイギリス独立党の台頭など国内の事情が大きいと考えられます。
EUから離脱すると、イギリスのヨーロッパ内での影響力は大きくそがれるでしょう。また、対米関係も損なう危険性があります。アメリカがイギリスとの関係を重視する一因は、イギリスがEUに加盟していて、ときにはアメリカの意見を代弁してくれるからです。
国際政治の勢力図に影響を与えかねないこの問題は、しばらく注目を集めることでしょう。

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東京大学 教養学部 地域文化研究学科 准教授 小川 浩之 先生

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国際政治学

メッセージ

あなたにおすすめしたいのは、本を読むとともに実際の見聞を広めましょうということです。最近はインターネットで簡単にいろいろな情報に接することができますが、自分の足を使って本物を見てほしいと思います。旅行でもいいですし、美術館、スポーツ、音楽、なんでもいいです。生の体験から得られる感動はやはり違いますし、それによって思いがけない方向に興味関心が広がることがあります。私も海外での調査では、図書館などにこもりきりになることがありますが、空いた時間は積極的に街を歩き、人や空気を直接感じるようにしています。

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