2次元物質を重ね合わせて、新たな性質を作り出す
ミルフィーユを剝がすように
鉛筆の芯の材料にもなるグラファイト(黒鉛)は、ダイヤモンドや石炭と同様に炭素原子の集合体で、ミルフィーユのように薄い層が重なってできています。1枚の層は、原子が横方向に強くつながっているのに対し、層と層とは弱いファンデルワールス力で結合しているため、簡単に剝がすことができます。1層の平面的な物質を2次元物質と呼びますが、グラファイトの2次元物質はグラフェンと言います。なお、同じ炭素でもダイヤモンドはジャングルジムのように原子が立体的につながっている3次元物質で、剝がすことはできません。
モアレ模様が超伝導を導く
2次元物質は、同じ元素の3次元物質とはまったく違う性質を持っています。また、2次元物質を重ね合わせると、さらに違う性質を見せることがあります。グラフェンは原子が六角形の格子構造で連なっています。2枚のグラフェンを重ね合わせ、片方の層を回転させていくと、一定の角度で「モアレ模様」という元の格子にはない別の模様が浮き出てきます。この時、もともと超伝導体ではないグラフェンが、電気抵抗がゼロになる超伝導の性質になることが発見されました。理由ははっきりとは解明されていませんが、モアレ模様が大きな一つの原子のようになり、そこに電子が閉じ込められるからだと推測されています。
組み合わせ方は無限大
また、もともと超伝導の性質がある3次元物質に別の2次元物質をのせると、超伝導に達する温度が3次元物質だけの時より高くなり、より常温に近い温度で超伝導状態になることもわかりました。超伝導物質を探す場合、今までは3次元物質の組成そのものを調整する手法を取っていました。しかし、2次元物質を重ね合わせて超伝導の性質を作り出せたことで、別のアプローチから物質を探すことができるようになったのです。モアレ模様の作り方は幾通りもあり、物質の組み合わせ方は無限大です。これらの発見は、次世代の新たな技術につながる可能性を秘めています。
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大阪大学 理学部 物理学科 教授 越野 幹人 先生
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