船が自動発信する情報で、津波の大きさを予測する
日本の津波予測システム
2011年の東日本大震災では沿岸に大津波が押し寄せ、多くの人命が失われました。地震を正確に予測することは不可能ですが、地震が起きてからの津波の予測は原理的に可能です。日本の太平洋の沖合では、地震計と水圧計が一体となった観測装置を海底ケーブルで接続し、リアルタイムに観測データを取得することで地震直後の津波の予測に役立てています。しかし多額の費用がともなうために、日本以外の国でこのような津波予測システムの設置は進んでいないのが現状です。
不特定多数の船舶の情報を活用
海には多くの船舶が絶えず航行しています。国際海事機関(IMO)の条約により、一定の基準を満たす船舶は、緯度・経度を始め、速度、進路、船名、目的地などの情報を公に発信することになっています。それらの情報は一般的なスマートフォン用アプリでも簡単に見ることができます。船舶の進む方向と船首の方向は、通常は一致します。しかし、海水や風の影響を受けると、進む方向と船首方向にズレが生じます。大津波では船は大きく流されてしまい、実際の津波時のデータを解析すると、船首方向と直行する方向の速度は、津波の流速とほぼ一致することがわかりました。つまり、この手法を使えば、新たな観測装置を設置しなくても、航行している不特定多数の船舶から発信される情報によって、津波の計測と予測が可能になると期待されます。
あらゆる地域に津波防災を
津波は地震だけで起こるものではありません。2018年12月にはインドネシアの火山島の一部が崩落し、それによって発生した津波によって、ジャワ島では数百人が亡くなりました。このような大地震を伴わない津波に警報を出すことは簡単ではありません。船舶自動識別装置のデータ解析による津波の計測と予測は、大きな設備投資ができない地域での津波防災の一助になるでしょう。
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東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 准教授 稲津 大祐 先生
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